「そうとも、あまりに長い年月だった。私はヒトの時間を大きく逸脱して、エルダーリッチとなった。ゾンビみたいなものさ」

しかしエルダーリッチは、美しい女の外観を保っている。こういうとなんだけれど、変なニオイもしないし、俺の知識にあるゾンビとはずいぶん違う。

「すべては、森の魔物が外へ出ることを防ぐためだ。そのために私は存在する」

「私たちを、外に出さないつもりか?」

フェリスが尋ねると、エルダーリッチはおとがいに曲げた人さし指を当てた。

「いや、そのつもりはないよ。君たちは、リーダーである君……名前を教えてくれないか」

「ソラ……です」

「ふむ、ソラ。彼女たちは完全に君を信頼しているようだし、君は魔物を率いて悪さをするような人間には見えない。私が護りたいのは人類の平穏、罪なき人の命だ。君がそれを害するとは思えないからな」

「当然、私たちにそんなつもりはないわ……外の世界を見たいだけ」

リュカが言うと、ミュウが俺の膝でぽいんと跳ねた。

「ソトノセカイ、ミタイ!」

「まあそう焦るな」

エルダーリッチは立ち上がると、マントルピースの上にある水晶宮に触れた。そして目をつむり、しばらく黙っていた。

「なるほどな」

そう言って振り返る。

「君たちがどうやってここまで来たのか、見せてもらった。君たちには大迷宮を攻略するために必要なものが、すべて揃っている」