俺は身を翻すと、一目散に逃げた。ズゥンズゥンとコカトリスの足音が追いかけてくる。

倒木を跨ぎ、岩を乗り越え――見上げると、巨木に太いツタが絡み合っている場所がある。あそこなら身を隠せるかもしれない。

背後の木が、次々となぎ倒される。俺はツタの生い茂る場所へと急いだ。そして巨大な根の下に身を隠す。相手を見る余裕もない。ホッと息をつこうとした、その瞬間――。



――ブチッ、ブチブチブチ、メリメリメリメリ……



思わず根から顔を出した。コカトリスがツタをついばんで引きちぎっている! どんどん俺を隠しているものが消えていく。コカトリスの顔が見え隠れする。



――ドッ



何が起こったのか、わからなかった。俺は隠れていた根の陰から、遠い場所にいた。巨大な根は引きちぎられている。そして、俺を見下ろしているコカトリスのくちばし――その先には、小さく血が付いていた。ワイバーンの血、いや、それだけじゃない――思わず懐を探る――ぬるりとして、熱い――熱い!



腹を食い破られた!!



視界の周囲が暗くなってくる。パニックのためか、出血のためかはわからない。俺は血塗れの自分の手と、コカトリスとを交互に見た。

助からない。もう、助からない。

再び眼前にコカトリスの巨大な顔が現れる。それがブレて見えて――。



――ドッ



衝撃と共に――俺は気を失った。