「法がうまく機能すれば、連中もその居心地の良さがわかるだろう。ただ争うだけの過酷さから解放されるのが、どれだけありがたいことかは、体感してみればわかることだ」

長い争いの果てに得た世界のバランスを、向こうの世界で〈歴史〉というかたちで学んできた、俺だから言えることに違いない。

「幸いこの森には、俺のいた世界にあったような〈情勢の変化〉がほとんど発生しないと思う。連中は基本的に自然の摂理に従って生きているからだ。ここで言う法というのは、そこにわずかに加えられるエッセンスなんだよ」

この森には、おそらく俺がいた世界ほどの規律は求められないだろう。そしていちばん重要なのが――。

「いちばん重要なのが、それがこの森を治めてきた君たち固有種によって与えられることだ。強い者が提示した法は、強く機能する。そのあとは……そっと消えればいいんだ。リュカ、そうすれば君は自由になる」

リュカに視線をやると、彼女は涙ぐんでいた。

「ということは……私がいなくても……この森は……」

「そうだ、もう大丈夫だ。ただ、それには不死鳥と白鯨の力が必要だ。君たちすべての連名があって、初めて法はその権威を持つはずだ」

「気に入らんな、その法というやつは」

フェリスは、マグカップを置いた。

「だが、気に入らんものでも利用できるなら利用する。それが自由というものだ」

「ソラ……」