逃げ場はない。

落ち着け、何かできること――何かできること!

ない、何もない!

ここで死ぬのか!?

こんなところで――こんなところで!



――バササッ



ワイバーンが、羽を広げて威嚇する。

囲まれているから、後ずさりもできない。

絶体絶命――ワイバーンが跳躍した。

俺に向かって。

終わった。

そう思った――その瞬間だった。



――ゴキィ!



目の前で、ワイバーンの背中が真っ二つに折れた。



――ギキシャアアアアアアアア!!



悲鳴を上げるワイバーンに、更に鋭く打ち込まれるのは――上空からの巨大なくちばしだった。

赤く濡れたくちばしが、ワイバーンをドスドスとついばんでいる。ワイバーンの悲鳴が上がる。

見上げれば、そこにいたのは鱗に覆われた巨大な鶏の化け物だった。

ちょっとした家くらいはある。信じられない大きさだ。思わず《鑑定》を使った。

奴は〈コカトリス〉――後ろで大きな羽ばたきが聞こえた。2匹のワイバーンが飛び去ったらしい。

残されたのは俺ひとりだ。

ゆっくりと、ゆっくりと後ろにさがる。



――パキッ



足下で、小枝の折れる感触がした。

コカトリスがワイバーンを夢中でついばんでいる――そのくちばしが、止まった。

丸い眼が、ギロリと俺を見た。



――しまった!