俺は――俺は、とんでもない提案をしてしまったのだ。

「そんな顔しないで」

リュカは、ぎこちない笑みを浮かべる。

「ソラは勘がいいわね。そう、森の秩序を保ってきたのは〈平定者〉である私や不死鳥なの。私がここを去れば、また混沌が……でも……私は……」

「すまなかった」

俺はリュカに頭を下げた。ミュウが、ぽにょっと身体をくねらせた。

「俺は無責任に、君を森脱出に誘ってしまった。君には責任があったんだな。それを無理に」

彼女には、〈平定者〉という立場があったのだ。彼女が森を守っていた。それを俺は、無理に引き抜こうとしたのだ。深い後悔が胸を焼いた。

「やめてちょうだい。無理に、じゃないの……ただ私は……」

リュカはそう言って、フェリスに視線を移した。そうして、自嘲する。

「滑稽に見える? 嗤いたかったら嗤えばいいわ。あなたの宿敵が、これほど無様な姿を見せるとは思わなかったでしょう……」

「嗤えないな」

フェリスは、リュカを鋭く睨んだ。

「嗤うどころか、吐き気がする。怒りがこみ上げてくる」

マグカップをゴンと置いて、立ち上がった。

「獄炎竜リンドヴルム、お前には覚悟がない。お前のような半端者がいなければ滅ぶ森など、滅んでしまえばいい」

「何を言うの、この森は……」

「この森は、なんだ」

フェリスはリュカを見下ろす。

「この森が、いったいなんだというんだ」