「いつまでもこうしてるわけにはいかないな。詳しく話を聞きたいところだけど、とりあえずはシャワーだ。風邪を引くといけない」

リュカとフェリスが先にシャワーを浴びて、それから俺。ミュウは大丈夫そう。3人と1匹で、リビングのソファーに座った。コンデンスヤシの白い樹液を温めて、マグカップに注ぐ。

「不死鳥の言った〈混沌の地獄〉ってのは、特に気になったな」

テーブルにマグカップを置くと、リュカは、ありがとう、と受け取った。

「古い話をしないといけないようね」

そう言って、樹液をひとくち飲んだ。俺もマグカップを傾ける。とろりとした温かい樹液は、先ほどの嵐を忘れさせてくれる、優しい味がした。

「………………」

リュカはマグカップをじっと見つめて、話を始めた。俺は、それにじっと聞き入った。

「ずっと昔のことよ。この森には秩序なんてものはなかった。強い者が弱い者を喰らうだけでなく、強い者同士ですら、互いを喰らいあっていたわ。この森で、敵でない者はひとつもなかった」

俺は、この森に来たばかりの頃を思い出す。すべての魔物があのときの俺のような状態ならば、悪魔の森は今以上の地獄だったことだろう。

「そこで生まれたのが私たち固有種……つまり他の魔物とは別格の強さを持った個体よ」

「なるほど、そこでようやく秩序が……」

そこまで言って、俺は思わずマグカップを取り落としそうになった。