柔らかな春風にのって、ふぅわりと薄紅が舞う。

 東見家自慢の一本桜が今年も見頃を迎えていた。門からでは全貌がわからぬほどに広い敷地に建つ、武家造りのお屋敷。

 手入れの行き届いた庭には大池があり、そこらの娘子よりはるかに高価な鯉たちが優美な姿を見せている。

 東見がこの地に屋敷を移したのはエドの初期。その前はキョウに、さらに昔はカマクラに居を構えていたこともあった。

 彼らはまるで影のように、時の権力者にぴったりと寄り添い続けてきた。

 東見の歴史は長い。

 将軍家など目ではなく、ややもすれば帝室よりも古くまで、その血筋をさかのぼることができる。

 それだけの時間をかけて、東見は莫大な財産と権力を蓄えてきた。

〝影の帝〟

 誰が呼びはじめたのかは知らないけれど、なかなかに核心をついたよいふたつ名だ。

 決して表舞台に出ることはないけれど、この国を根底からひっくり返すほどの力を彼らは持っている。

 その力の源は、東見の当主に代々宿る不思議な能力。

 東見は、もとは〝先見〟の字を当てていた。