小夜子、すぐに僕も逝くよ。口の中に含んでいたもう1錠のカプセルを僕は噛み砕いた。1962年5月26日は、「高本総一郎」としての命日となった。

 1998年、僕は「若村和也」として再びこの世に生を受けた。物心がついて自我が確立してくる頃、前世の夢を見るようになった。徐々に鮮明になっていく「高本総一郎」の物語の全貌を15歳の頃に理解した。冷静になると僕はとんでもないことをしたと気づいた。愛しい、愛しい小夜子をこの手で殺した。
 運命に導かれるように医師になった。研修医として勤め始めた病院にいた麗奈を見て、小夜子の生まれ変わりであるとすぐに気づいた。
 小夜子を殺した僕に彼女とともに生きていく資格はない。それでも、どうしようもなく彼女に惹かれてしまった。悩んだ末、僕が小夜子を殺したのと同じ交際3年目のこの日に真実を告白することにした。

 すべてを告げた後、麗奈は言った。

「知ってたよ」

麗奈がそっと僕の頬を撫でた。

「和也がソウちゃんだってすぐに気づいたよ」

驚いたことに、麗奈も「こちら側」の人間だったのだ。どうして僕だけが特別だと思ったのだろう。愚鈍な総一郎が知っていることは、聡明な小夜子は全部知っていた。僕が前世の記憶を持っているのならば、同じく夭逝した彼女が記憶を受け継いでいても何も不思議ではなかった。麗奈は、かつて自分を殺した男とどのような気持ちで過ごしていたのだろうか。

「恨むわけないよ。私がお願いしたんだから」

僕はずっと罪悪感を抱えて生きてきた。麗奈に何度も言おうとして、言えなかった。麗奈に拒絶されるのが怖かった。いつか、僕は麗奈のことも手にかけてしまうのではないかと思った。その前に、真実を告げて麗奈が死神の手を離れて幸せになってくれるのならばそれが一番いいとさえ思えた。葛藤で何度も吐いた。それでも、彼女が好きだった。

「辛かったね。もう苦しまなくていいんだよ」

麗奈は僕を抱きしめた。麗奈の体温がとてもあたたかくて涙がこぼれた。

「麗奈、愛してる」
「ありがとう、私も愛してる」

僕達は、明日も明後日も共に生きていくために口づけを交わした。