次の日また次の日も、わたしは丘の上へ足を運んだ。あと四日、三日とカウントダウンしながら、次に会える時間を心待ちにして。

 残り一日。
 読書感想文を書くために読んでいる本を持って、今日も魔女の家を訪れた。
 大きな木の下に腰を下ろして、面白い本があると話していると、ハルがわたしの手元を見てつぶやく。

「それって」

 開かれた単行本のページに挟んでいる、花のしおり。

「僕があげたもの?」

 一年前、ハルがくれたライラックを、母にラミネートしてもらった。それから、ずっと使っている。
 恥ずかしくなってパタンと隠すけど、嬉しそうなハルに負けて。

「……気に入ってるから」

 風にかき消されてしまいそうなほど、小さな声を出した。
 心の内がバレてしまったようで、落ち着かない。
 視線を上げれないでいると、近くで揺れるカーネーションに触れながらハルが静かに話す。

「花って、ひとつずつ意味があるの知ってる?」
「……花言葉ってやつ?」
「そう」
「聞いたことはあるけど、よく知らない」

 赤いカーネーションには、母への愛という意味があるらしい。だから母の日には、それを贈る風習が見られるのだと初めて知った。

 人から花を贈られたら、何か意図的なメッセージがあるかもしれない。ハルの言葉に、少し胸がそわそわする。
 期待するわけではないけど、もしかしたらーー。
 そんな淡い感情が、湧き上がって来たから。

「ライラックには、友情って意味があるんだ。僕にとって、花梨が初めての友達なんだ」

 ーー友達。
 それは喜ばしいことのはずなのに、なぜか胸がチクリと痛む。
 ハルにとって、わたしは夏の五日間だけの友達に過ぎない。はなから、分かっていたことなのに。