自称吸血鬼の彼は、前より背丈が伸びて、雰囲気も大人っぽくなっていた。
 歳を聞いたら、わたしのふたつ上で、この春で高校一年生になったという。
 なんだか少し、遠い存在になってしまった気がした。

「花梨は、学校楽しい?」
「それなりに……かな。きゅ……きゅう……」

 なんて呼んだらいいんだろう。
 ふいに緊張が湧き上がってきて、声を詰まらせる。

「ハルでいいよ」

 それに気付いてか、そばに咲いているハルシャギクを触りながら、彼が空のティーカップに花びらを落とす。
 残っていた雫が染み込んで、黄から赤へと変わる。

 きっと、これも本当の名前じゃない。
 またひとつ距離を感じて、薔薇の棘が刺さったみたいに胸がチクッと痛んだ。

「ハルの高校って、どんな感じなの?」
「うーん、普通なんじゃないかなぁ」
「……答えになってないよ。共学……なの?」
「気になる?」

 満足そうな笑みにしてやられたといった感じで、可愛げもなく「べつに」と返してしまう。
 一年ぶりに会えたのに、照れ臭くて素直になれない。

「そういう花梨は、どうなの?」
「……どうって?」
「クラスにカッコいい子、いたりする?」

 カッと染まり上がる頬を見て、ハルが首を傾ける。
 わざとなのか、無意識なのか。
 もう残り少ないティーカップの中身を、ぐいっと飲み干して、一呼吸置く。

「……いないよ」

 ならよかったと白い歯を見せるこの人以外に、思ったことはない。
 いつの間にか、わたしはハルに心を食べられていた。