庭のプランターの前で腰を下ろして、赤や橙をしたきれいな丸を見つめる。
「この木の実食べてみて。甘くて美味しいんだ」
その場でぷちりともぎ取られた赤い実に、思わず身構えた。
あの噂話を信じるわけではないけど、大丈夫かなって。
知らない人には、まず身元を確認すること。留守番のとき、いつもお兄ちゃんがインターホン越しにしている事を思い出して、尋ねてみる。
「あの……その前に、名前聞いていい?」
「僕、自分の名前好きじゃないんだよね。だから……、吸血鬼くんでいいよ」
「なんでっ、吸血鬼?」
体重をかけているつま先に、より力が入る。
「みんなそう言ってるでしょ?」
「……それは」
言葉に詰まったのを見て、クスクスと彼は笑った。
「花梨は嘘がつけないんだね」
「……ごめんなさい」
「褒めたんだよ。それに、新鮮な血が欲しいのは、ほんとうのことだし」
「ーーやだっ、怖い!」
引きつった顔で肩を遠ざける素振りをすると、「あはは、冗談だよ」と、彼はからかうような声を上げた。
笑うと目がなくなって、とても柔らかな表情になる。
やっぱり、この人は悪い人じゃない。
ここの空気がそう言っていたから、わたしは赤い実を口にした。甘酸っぱい味がしたことを、今でも鮮明に覚えている。
「この木の実食べてみて。甘くて美味しいんだ」
その場でぷちりともぎ取られた赤い実に、思わず身構えた。
あの噂話を信じるわけではないけど、大丈夫かなって。
知らない人には、まず身元を確認すること。留守番のとき、いつもお兄ちゃんがインターホン越しにしている事を思い出して、尋ねてみる。
「あの……その前に、名前聞いていい?」
「僕、自分の名前好きじゃないんだよね。だから……、吸血鬼くんでいいよ」
「なんでっ、吸血鬼?」
体重をかけているつま先に、より力が入る。
「みんなそう言ってるでしょ?」
「……それは」
言葉に詰まったのを見て、クスクスと彼は笑った。
「花梨は嘘がつけないんだね」
「……ごめんなさい」
「褒めたんだよ。それに、新鮮な血が欲しいのは、ほんとうのことだし」
「ーーやだっ、怖い!」
引きつった顔で肩を遠ざける素振りをすると、「あはは、冗談だよ」と、彼はからかうような声を上げた。
笑うと目がなくなって、とても柔らかな表情になる。
やっぱり、この人は悪い人じゃない。
ここの空気がそう言っていたから、わたしは赤い実を口にした。甘酸っぱい味がしたことを、今でも鮮明に覚えている。