十三歳の誕生日を迎えた夏。
 コバルトブルーの絵の具をこぼしたような空の下で、彼と出会った。

 愛猫のリラを追いかけて迷い込んだのは、鮮やかな花で埋め尽くされた庭。
 見たところ、ひまわり、コスモス、ポインセチアなど、季節感はまるでない。全てがこの空間に詰まっている。

『丘の上にある魔女の家には、絶対に近づいちゃダメだよ。心臓食べられちゃうかもよ』

 アヤミちゃんの声が、脳内で再生された。
 さほど本気にしていなかったけど、この時ばかりはまさかと思った。


「……ダメだよ、リラ。帰ろう?」

 切実な言葉も虚しく、リラは悠々と庭の中を歩き回る。
 ラベンダーのような花の前で顔を突っ込んで、なにやら食べている様子。

「ーーリラッ! もうっ、なにしてるの」

 どうすることも出来なくて、後ろめたさを感じながら庭へ足を踏み入れた。
 ……失礼します。
 そろそろと、忍者のような足取りで花道を進む。リラを抱き抱えようと、身を屈めた時だった。背後から、人の気配が現れたのは。

「こいつ、君ん()の猫だったんだ。昨日も遊びに来たんだ」

 絵から飛び出して来たような白髪に、色素の薄い肌。透き通るように紅い瞳。
 髪が肩ほどの長さがあるためか、中性的な容姿に見える。男か女か……高めの声だけど、恐らく男子だろう。

 その現実離れした容姿から、クラスメイトが噂する吸血鬼少年だと、すぐに分かった。