丘の上にある小さな家は、庭一面にあらゆる季節の花を咲かせる〝魔女の家〟と呼ばれている。
毎年ひと夏の間だけ、吸血鬼の少年が妖気をもらいに現れるのだと。
『赤い目に見つめられたら、血を吸われちゃうんだって』
『魔女の家へ入ったら、二度と帰って来れないらしいよ』
学校の人たちは、突拍子もない噂話が好きだ。いつも〝みたい〟とか〝らしい〟と語尾を濁して、仮定の話ばかりしている。
実際に見たこともないくせして、あたかも自分が経験したかのようなことを言う。
去年の春、わたしは都心から遠く離れた地方の中学へ転校してきた。それなりに友達も出来て、無難な毎日を送っている。
「ねぇ、花梨ちゃんも来ない? マヤちゃんとタカダヤのカラオケ行こうって約束してるんだけど」
「あっ、あとあっくんも誘うつもり」
終業式が終わって、教室から出たところで声をかけられた。
くるんと跳ねた毛先を触りながら、唇をきらきらと光らせているのは、クラスの中でも目立つ存在のアヤミちゃん。
となりで腕を絡めながら、待ち遠しくてたまらないと言いたげなマヤちゃんが、行こうよと口の端を上げる。
明日から始まる夏休みのことを話しているのだ。
「その日は用事があって。ごめんね」
「ざんねーん。じゃあ、また誘うねー!」
手を振りながら、ホッと胸を撫で下ろした。
ーーやっと会えるんだ。
わたしには、ずっと前から先約がある。あれは、もう一年も前のこと。
毎年ひと夏の間だけ、吸血鬼の少年が妖気をもらいに現れるのだと。
『赤い目に見つめられたら、血を吸われちゃうんだって』
『魔女の家へ入ったら、二度と帰って来れないらしいよ』
学校の人たちは、突拍子もない噂話が好きだ。いつも〝みたい〟とか〝らしい〟と語尾を濁して、仮定の話ばかりしている。
実際に見たこともないくせして、あたかも自分が経験したかのようなことを言う。
去年の春、わたしは都心から遠く離れた地方の中学へ転校してきた。それなりに友達も出来て、無難な毎日を送っている。
「ねぇ、花梨ちゃんも来ない? マヤちゃんとタカダヤのカラオケ行こうって約束してるんだけど」
「あっ、あとあっくんも誘うつもり」
終業式が終わって、教室から出たところで声をかけられた。
くるんと跳ねた毛先を触りながら、唇をきらきらと光らせているのは、クラスの中でも目立つ存在のアヤミちゃん。
となりで腕を絡めながら、待ち遠しくてたまらないと言いたげなマヤちゃんが、行こうよと口の端を上げる。
明日から始まる夏休みのことを話しているのだ。
「その日は用事があって。ごめんね」
「ざんねーん。じゃあ、また誘うねー!」
手を振りながら、ホッと胸を撫で下ろした。
ーーやっと会えるんだ。
わたしには、ずっと前から先約がある。あれは、もう一年も前のこと。