桜の香りが空気を包む。
 新しい制服に袖を通し、ぎこちない手つきでブレザーのボタンを止める。
 しおりを挟んだ本をかばんへ入れて、窓際に手を振った。

「行ってくるね」

 わたしの部屋には、今日もシオンが綺麗に咲いている。そのとなりで、小さなひまわりが寄り添うように並んでいる。
 まるで、仲良く話しているように。


 白髪に赤い宝石のような目をした彼。
 毎年、ひと夏のうち、五日間だけ会える人。
 それが私の初恋だった。

                fin.