今年も、夏風が青葉を揺らす季節になった。
飛びたい気持ちを抑えつつ、懐かしいじゃり道を踏みしめながら歩く。
一年ぶりに訪れた魔女の家は、相変わらず花が咲き乱れている。
背の高い草花の隙間から、きれいな白い髪が見えた。
「ハル……!」
近付いて、思わず足を止める。
庭に立っていたのは、白髪を頭の後ろで結い上げた老女だった。その人は渋みのある紫の服に身を包み、まるで魔女のように高い鼻をしている。
「あの……すみません。ハル、えっと、毎年夏に来てる、高校生の男の子……いませんか?」
柔らかな雰囲気が、どことなくハルと似ている気がする。
しわが寄った頬を上げて、その人は小さな花束をこちらへ向けた。今さっき摘んだばかりのように美しい薄紫のシオン。
「あの子は、もうこの世界にはおりません。これは、あなたへ最後の贈り物です」
その花の意味は、ーーさようなら、君を忘れない。
「あの子の名よ。どうか忘れないであげて」
背中に隠していたひまわりが、パサッと落ちた。開いたままの瞳から、一粒の雫が流れてくる。
ハルの本当の名前は、シオン。
幼い頃から病弱で、ここ数年はずっと入院生活を送っていたらしい。夏休みの五日間だけ、祖母の家へ療養しに訪れていたと聞かされた。
『ハルの高校って、どんな感じなの?』
『うーん、普通なんじゃないかなぁ』
『……答えになってないよ。共学……なの?』
『気になる?』
ほとんど学校へ通っていなかったハル。どんな気持ちで、わたしと会っていたのだろう。話していたのだろう。
『僕にとって、花梨が初めての友達なんだ』
『ずっと、花梨のこと想ってる』
紫の花を抱きしめながら、がくんとひざから崩れた。あふれ出した玉の粒が、花びらを弾いて流れ落ちていく。
「……シオンくん」
きっとハルは、この花言葉が嫌いだったのかもしれない。
独りぼっちにされた気がして。
さようならと、言われているみたいで。
飛びたい気持ちを抑えつつ、懐かしいじゃり道を踏みしめながら歩く。
一年ぶりに訪れた魔女の家は、相変わらず花が咲き乱れている。
背の高い草花の隙間から、きれいな白い髪が見えた。
「ハル……!」
近付いて、思わず足を止める。
庭に立っていたのは、白髪を頭の後ろで結い上げた老女だった。その人は渋みのある紫の服に身を包み、まるで魔女のように高い鼻をしている。
「あの……すみません。ハル、えっと、毎年夏に来てる、高校生の男の子……いませんか?」
柔らかな雰囲気が、どことなくハルと似ている気がする。
しわが寄った頬を上げて、その人は小さな花束をこちらへ向けた。今さっき摘んだばかりのように美しい薄紫のシオン。
「あの子は、もうこの世界にはおりません。これは、あなたへ最後の贈り物です」
その花の意味は、ーーさようなら、君を忘れない。
「あの子の名よ。どうか忘れないであげて」
背中に隠していたひまわりが、パサッと落ちた。開いたままの瞳から、一粒の雫が流れてくる。
ハルの本当の名前は、シオン。
幼い頃から病弱で、ここ数年はずっと入院生活を送っていたらしい。夏休みの五日間だけ、祖母の家へ療養しに訪れていたと聞かされた。
『ハルの高校って、どんな感じなの?』
『うーん、普通なんじゃないかなぁ』
『……答えになってないよ。共学……なの?』
『気になる?』
ほとんど学校へ通っていなかったハル。どんな気持ちで、わたしと会っていたのだろう。話していたのだろう。
『僕にとって、花梨が初めての友達なんだ』
『ずっと、花梨のこと想ってる』
紫の花を抱きしめながら、がくんとひざから崩れた。あふれ出した玉の粒が、花びらを弾いて流れ落ちていく。
「……シオンくん」
きっとハルは、この花言葉が嫌いだったのかもしれない。
独りぼっちにされた気がして。
さようならと、言われているみたいで。



