夏が終わり、虫音が涼しさを運ぶ秋がやって来た。白い綿帽子の降る冬が訪れて、花香の漂う春が過ぎていく。
 中学三年になって変わったことは、伸ばし続けている髪とこれくらい。

「花梨ちゃんって、いつもそのしおり使ってるよね。もしかして手作り?」

 紫のライラックを押し花にして、肌身離さず持ち歩いている。ハルがくれたお守り。

「……特別な人からもらったの」
「ええ、なになに? カレシとか?」

 アヤミちゃんとマヤちゃんが、キャッキャッと黄色い声を上げる。
 そんなんじゃないよと笑って返して、パタンと本を閉じた。

 花をもらった日の夜、花言葉を調べてみた。面と向かっては素直に話せないから、来年会うときは、花に乗せて気持ちを伝えたくて。

 赤いチューリップは、愛の告白。ひまわりは、あなただけを見つめる。
 スクロールする指が、ピタリと止まる。

 紫のライラックは、ーー初恋。

 文字を見たとたんに、胸がキュッと狭くなって、ハルの笑った顔を思い出した。

『ずっと花梨のこと、想ってる』

 友情に隠されていた本心に、ようやく気付くことが出来たから。もう、なにも怖くない。