土岐は部屋を見渡す。狭い。スタンドピアノのせいだ。黒い蓋に薄らと埃が覆っているように見える。窓の外は隣家の壁で、日が差し込まない。照明が暗い。外が明るかったせいかもしれない。
女が紅茶をもって現れた。レモンティーだ。センターテーブルに置かれるティーカップを土岐は不安げな目線で眺めた。
「ミルクティーのほうがよかったでしょうか?」
と女が言う。土岐の顔色で土岐の思いが読み取れるようだ。しかし、事前にミルクティーは用意していない。
「いえ、これで結構です」
と言うが、土岐は手を出さない。
「ご主人の、水原昇さんは?」
「すいません。ちょっと所要がありまして、外出しております」
土岐は水原昇が肥満体かはげのいずれかと推理した結果を検証したかったが、本題に入ることにした。
「さっそくですが、ご用件は?」
「じつは、この三月に娘が亡くなりまして・・・」
「それは、ご愁傷様です」
「自殺したようなんですが、理由がわからなくて・・・」
と女は緩やかに首を左右に振り、目をしばたたかせる。
「あのう、失礼ですが・・・亡くなられたお嬢様のお母様で、水原昇さんの奥様でいらっしゃいますか」
「あっ、わたくしですか。すいません。自己紹介もしないで・・・わたくし、水原幸子と申します。亡くなった娘は千鶴子といいます」
「それではわたしも自己紹介を・・・」
といいながら土岐はパソコンで作成した名刺を差し出した。
「このたびは、ご用命をいただきましてありがとうございます。ご用件はお嬢様に関することですか」
「ええ。娘が自殺した理由を少し調べていただけたらと思いまして・・・」
「そうですか。詳しいことをお話しいただけますか」
幸子は応接間の窓の上のほうに目をやる。やつれた喉がよく見える。
「今年の一月末に卒業論文を書き終えて、単位はすべて春学期に取得していて、秋学期は期末試験がなくて、二月になって卒業式まで、卒業旅行代わりに、山中湖の小さなコテージを借りて、読書三昧をしたいって出かけたんです、ひとりで。卒業式の前日に帰宅する予定だったんですが、帰らなくって。携帯電話に掛けたんですけど、充電切れでかからなくって。卒業式の日に、コテージの管理人から連絡があって、亡くなったらしいって」
「コテッジのほうには、どれくらいおられたんですか」
「ひと月半ほどです」
「どういうふうに亡くなられたんですか」
女が紅茶をもって現れた。レモンティーだ。センターテーブルに置かれるティーカップを土岐は不安げな目線で眺めた。
「ミルクティーのほうがよかったでしょうか?」
と女が言う。土岐の顔色で土岐の思いが読み取れるようだ。しかし、事前にミルクティーは用意していない。
「いえ、これで結構です」
と言うが、土岐は手を出さない。
「ご主人の、水原昇さんは?」
「すいません。ちょっと所要がありまして、外出しております」
土岐は水原昇が肥満体かはげのいずれかと推理した結果を検証したかったが、本題に入ることにした。
「さっそくですが、ご用件は?」
「じつは、この三月に娘が亡くなりまして・・・」
「それは、ご愁傷様です」
「自殺したようなんですが、理由がわからなくて・・・」
と女は緩やかに首を左右に振り、目をしばたたかせる。
「あのう、失礼ですが・・・亡くなられたお嬢様のお母様で、水原昇さんの奥様でいらっしゃいますか」
「あっ、わたくしですか。すいません。自己紹介もしないで・・・わたくし、水原幸子と申します。亡くなった娘は千鶴子といいます」
「それではわたしも自己紹介を・・・」
といいながら土岐はパソコンで作成した名刺を差し出した。
「このたびは、ご用命をいただきましてありがとうございます。ご用件はお嬢様に関することですか」
「ええ。娘が自殺した理由を少し調べていただけたらと思いまして・・・」
「そうですか。詳しいことをお話しいただけますか」
幸子は応接間の窓の上のほうに目をやる。やつれた喉がよく見える。
「今年の一月末に卒業論文を書き終えて、単位はすべて春学期に取得していて、秋学期は期末試験がなくて、二月になって卒業式まで、卒業旅行代わりに、山中湖の小さなコテージを借りて、読書三昧をしたいって出かけたんです、ひとりで。卒業式の前日に帰宅する予定だったんですが、帰らなくって。携帯電話に掛けたんですけど、充電切れでかからなくって。卒業式の日に、コテージの管理人から連絡があって、亡くなったらしいって」
「コテッジのほうには、どれくらいおられたんですか」
「ひと月半ほどです」
「どういうふうに亡くなられたんですか」