「楡のさあ」
「ん?」
「そういう……なんていうの、ナルシストっていうか、ばかっていうか、まあ……その……うん。楡のこと、なんだかんだ言って好きなんだよね。なんでだろ、ムカつくけど」
「え、けなしてる?」
だからわたし、あ、死のう、ってなったときには、楡にも嫌いだって嘘をつかないといけないと思う。
そうやってして、宵闇の中にまぎれたい。かも。なんて。
「高良、あんさ、冒険っていくつになってもしたいもんだよな」
「うん?」
「俺のチャリの後ろ、乗ります?」
「……え、重いけど」
「やってみようぜ。したことないんよ、でもなんかいけそう。ちゃんと掴まっててくれたら落としはせんと思うな、補導はされっかもだけど」
楡が自分の自転車を、昼間よりも幾分か数の減ったであろう駐輪場から見つけ出して、鍵を回した。ガチャン。重そうなくせして右手ひとつであいちゃうような施錠を解除して、な、と振り返る。
わたしは自転車を持っていない。死にやすそうだし、相手を傷つけるのも容易いんじゃないかと思うとなかなかどうしても。
たまには、風、を、感じる。
「命、預けた」
荷台に座ると、結構お尻が痛かった。ほとんど何も入っていないかばんを下にやってみる。うん、いいかも。ちゃんと持ち手のところには腕を通しておこう、落としてしまわないように。巻き込んでしまわないように。
「うお、おも」
「……さようなら、楡くん」
「まてまてまて、ちがう、これが命の重さかってちょっと引い、ちがう、責任重大だなって気を引き締めただけだから!」
絶交もすぐそこだなあと思いながら、楡の腰に手を回した。