「わすれろって言ったくせに、なんで思い出させるようなこと言うの」
「そりゃ俺、悪魔だったし──、これも含めて全部エゴですよ。自分のやりたいようにやるんだわ」
「ずるい」
「おー、ずるくて上等ってとこ。高良、ほんとはやだった? わすれたままがよかった?」
「うるさい、そうやって揚げ足とろうとするとこほんと嫌い、絶交しよう」
「しないわばか」
ぱちん、とかるくデコピンを受ける。弾けるような、ほんの少しの痛み。よかった。いま、記憶が飛ばなくてよかった。消されなくてよかった。もう悪魔じゃないから大丈夫だと思うけど、でも、ほんとうのほんとうによかった。
「わたし、やっぱり、嫌いなひとは嫌いだと思ったよ。自分が嫌われてるっていうのはねじれきった愛情を渡されてるからだ、って、そこまでは理解できたけど、自分がねじれきった愛情を渡してるとは思いたくなかった。嫌ってる。愛したくない」
「すごい断言するじゃん。まあいんじゃね? 絶対いつでもどうって決めきらなくたって。高良はそう考えて、俺はあのとき言ったみたいに考えてて、都合いいときに都合いい考え方持ってきたっていいべや。その感情はだれかに迷惑かけるようなもんでもないわけですし」
楡だ。本物すぎる。わたしの幻想だとしたら、こんなに楡らしくしゃべってくれない。きっとそう。
「楡、」
「ん」
「……おかえり」
楡は、脱力したみたいにおー、なんて言って、それからへらりとわらった。はじめて見る表情で、またボロボロ泣いてしまった。


