「嫌いだ」
嫌い。嫌い。大嫌い。母に向けたいと思ったのとは、またちがった嫌いの感情。母には、純粋な好意をどうにかねじ曲げて嫌いという器に込めたみたいな。
そうじゃなくて、あのひとに向けてる嫌いは根本からちがって、いや、ちがう。根本からちがう意味で嫌ってるわけではないんだっけ。
嫌い。嫌いって、なんだ。ねじれきった呪いみたいな愛情、を、向けるものなんだっけ。
痛い。くるしい。なんでこんなに曖昧にしか覚えていないんだろう。『祈り』に書かれていたことばだった? もうずっと読んでいないから、細かい文章はわすれている。
わたしはあのひとに、期待しすぎているのかもしれない。はなから諦めてしまうというのも、ほんとうはありなのかもしれない。
ねじれきった愛情を注がれているから、反発したくて、受け取りたくなくて、ねじり返しているのかもしれない。
わからない。
動かされるみたいにして、『祈り』を手に取った。ひさびさだった。手触りはなんてことのない普通の文庫本で、ああ、なんて、落胆なのか感嘆なのかわからない声が出た。
ぱらぱらとページをめくっていく。あとがきを軽く読む。楡木アコと申します。
──明日は、ちゃんと、行かなきゃ。
もういちどつぶやくと、どっと眠たくなった。溺れるみたいにひどく眠った。


