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3年生になった。転校生が来た。彼は、自己紹介で爽やかにわらっていた。
『楡サクラです。楡と桜の豪華盛り合わせです。よろしくお願いします』
桜。桜の香りは、相変わらず思い出せない。あんなに近くで春をすごしてきたのに。
じっとふわふわした茶髪を眺めながら、頬杖をついて首をかしげた。何か、──いや、何も。か。何もなかった。気になった気がしたんだけど。結局、頭が重くて驚いてしまっただけ。
微かに耳鳴りがしている。でも大丈夫。あのときほどは痛くない。いまならまだ、いちばん痛かったあのときほどじゃない。まだ耐えられる。大丈夫。大丈夫、わたし。
どこから来たの、俺が校舎内案内するよ、休み時間になってみんなが楡くんのことを囲んだ。わたしはまざらない。
いままでどうやって学校での時間を過ごしていたのか、いまいち自信がなかった。記憶に自信がない。春休み明けだからかな、どうしても覚えてない。
ため息をつく。ちいさくちいさくしたつもりだった。楡くんのもとに行こうとしたのだろうか、前の席の女の子が立ち上がったタイミングだった。
「……大丈夫? なんか、元気ないかな」


