「おまえの隣のせかいは、まぶしすぎて無理」
ぼそりとしたつぶやきが聞こえたと同時に、ひときわ強く風が吹いた。あまりの衝撃に、あんなに小さな声は幻聴だったのではないかと思った。そうして気がつく、自分が強く目を閉じているということ。
強い風で反射的に閉じてしまったんだ、と気がついたときには、風はそよ風程度にまで止んでいた。
「……わ、着信すごい入ってる」
スマホの画面には、5件ほどの母からの着信。
「もしもし……、うん、ごめんね。気づかなくて。いま? ──いまは、その、公園にいるんだけど。なんで、って、なんでだろう。わかんない……うん、大丈夫。ひとりだよ。大丈夫、ちゃんと帰るね。ごめんね、心配させて」
もう6時だった。とっくに家に帰っている時間なはずなのに、制服で、いちども家に帰らないで、ほんとう何してたんだろう。
こんなことは普段しないから、最近のわたしの不安定さもあって、母も心配になったんだろう。心配かけてごめんね。
つぶやきながら歩き出す。
手の中には、クレープを覆っていたであろう紙と、それで織り込むかたちにしてあるスプーン。わたし、クレープとか食べてたっけ。記憶はない。口の中に何か味が残っているわけでもない。なんだか喉が渇いていた。
一瞬、桜の濃い匂いがした気がしたけれど、意識して嗅ごうとしたらわからなくなってしまった。
こんなにも近くなのに。


