「……ごめん、やっぱりよくわかんない」
「もうどうでもいいべや、眠くなってきたろ」
あ、と思ったときには、楡はベンチから立ち上がって大きな伸びをしていた。猫みたいだ。気まぐれで、こっちの思う通りにはしてくれない、だけどそれだからこそ猫で、こっちが言いなりにさせるのもちがうなって、ちがう、だめだ。それをよしと認めたらだめだ。わたしはなにもわからないままになる。
「よくない。よくないんだけど。ねえちょっと、楡」
「いちばんくるしんでるとか、いちばんくるしんでないとか、そういうの1回捨ててみろよ。んで、いちばん愛されてるとか、いちばん愛してるとか、いちばん愛したくないとか、もうなんでもいい、考えてみろ。不幸よりも愛のほうが、他人からもらうものだから、自分自身では測れなくてわかりやすい」
「……愛?」
そう! 楡は大きな声で言って、ビシッとわたしを指さした。誇らしげな顔。
愛。愛って、なんでそんなに突然。
「恥ずいからあんま言いたくないんだけどさ、おまえ、じつは愛されすぎなんだわ。そしてそれを自覚してんだわ」
「え、えっ? 自覚?」
「してる。めちゃくちゃしてる。わからんかな。死ぬときには嫌いだったって言おうっつう人間なんて、俺が看取ってきた中ではすくないんよ。相手に好かれてる、もしくは嫌われてる自覚があるから言えるんだ。嫌われるってのもひとつのねじれきった呪いみたいな愛情だろうから」
あ、と思った。嫌いだったって言いたいことをメモしたんだっけ。どこかにいれたいな、いれられなくても言いたいな、って。
「……考えてみる」
「せいぜい考えろよなあ」
「楡も隣で、一緒に考えてくれるんでしょ? 心強いことこの上ないですね」
いたずらするみたいにわらいかけると、楡が一瞬、息を止めたのに気がついた。


