「そういう楡の余命は?」
「ちょい待ち。鏡……よしあった。んと、73年17日とちょっと」
「長生きするね」
「健康なスポーツ少年ですからね」
「あー、うんうん」
夢ん中でさ、悪魔が余命を知りたいかって聞いてきたんよ。あ、悪魔っても顔面まんまる紫色のちっこいの、てわけじゃなくてさ、普通に人間ぽくて普通に黒い羽生えてて普通に悪魔名乗ってたわ。彼の名誉のために言っときますね。
「今日はどこ行くんでしたっけね」
「映画見に行くの、あと40分で上映しちゃうよ、上映10分前には入りたいしそれに」
「ポップコーン期間限定ココア味ね」
「やるじゃん、楡。覚えてるなんて。……うん? さっきのどこ行くんでしたっけねって、何? うそ?」
「だれかさんがうるさいからしかたなく覚えてあげてますよってアピール、てきな」
「そんなうるさいひとがいるの? 楡みたい。やだなあ」
「同族嫌悪ってやつか。……どっちにしても俺、けなされてんな」
わらうわたしをよそに、楡はひどくゆったりとしたペースで廊下を歩いていく。楡はおじいちゃんまで生きてく。いまより遅い歩みになるまで生きるなんて、全然想像つかないな。だって、ほら。スポーツ少年楡くんだし。