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夜、また遺書を書いた。最近毎晩書いている気がする。約束から1週間がたった日に渡したときには、
『あれ、手書きじゃないん』
と言われた。
『うん。まあいろいろあって』
『これ、打つのどんくらいかかった? 戦きたいから教えて』
『無理、わかんないよ。時計見てないもん』
楡は残念、とわらう。
『次は手書きできてよ。俺あてでも、ちがくても。そいで練習していこうぜ』
『……楡の書いたのは、見せてくれないの?』
『あー……──また今度な』
約束がちがう、と怒ったのもそのとき。あれからそれなりに時間はたったはずなのに、いまだにルーズリーフから進めない。かわいい便箋は今日もお行儀よく袋の中だ。それから、楡のいうまた今度も来ていない。
母に、書こうと思った。何を言おうかわからなくなった。確実に、伝えたい何かがあったはずなのに。嫌いだ、と、言いたかった。でもそれは声で、口に出して言わないと、あまりにも残酷に一生はっきりとした輪郭で残るんじゃないかー、って、気のつかいようが間違っているか。
どっちにしたって、記憶で残るかものとして残るかで永遠拭えず消えずなんだから。
わたしがいちばん知っているでしょう。楡も、母も、知らない。わたしだけだから、わたしがいちばん知っているから、やっぱりだめ。
嫌いだった、このことばは、向けたいけれど向け方がわからない。端の方にちいさくメモした。いいんだ。どうせルーズリーフだから。
そうしてそのままにゆらちゃんのことを考えて、思いついたように書いてしまって、後悔した。書いちゃいけない、なんてわけじゃないと思う。それでも書いていいとは言われない気がしていた。
母は、自殺だとまでは、わたしが相談を受ける手前だったとは、知らないから。
なんとか、午前2時を過ぎる前には書き終えた。ほっとする。便箋に書き写す気にもなれなくて、ルーズリーフはクリアファイルに入れてかばんに、下敷きとシャーペンは適当に隅においやった。
下敷きはお気に入りのキャラクターのもの。
おやすみ、と、ささやく。


