『ヒカワユラがさ、ここに連れてきたのは俺だからってことで、数多いる悪魔の中から俺を見つけ出して声掛けてきたんだよ。まあ俺イケメンだしすぐわかったんだろうな』
『うん、冗談はいいから簡潔にしゃべって。頭が追いつかないから』
『はいはい。ほんとのこと言うと、俺、謝りながら地獄まで連れていったんだよ。天国じゃないことに落胆するひとも多いし、申し訳ないじゃん? だから覚えてたんだと思う。そんなこと言う悪魔少ないし』
謝りながら運んでいたという、楡。その表情が思っていたよりも明るくて驚いた。申し訳なさとか罪悪感とかで押しつぶされた、影のある笑顔、というわけでもなかった。
『んで、高良麦は元気かって言うんだわ。わたしのせいで気にしてるんじゃないかって泣くんだ。は? だれだ、って思って人間界の見える鏡みたいな沼みたいなとこがあるんだけど、もう面倒だからそこにヒカワユラも連れて行って』
『鏡と沼って結構な差じゃ……』
『沼があるんだよ』
『しかも沼のほうをとるんだ』
『うるさいすよ、揚げ足とんな。話進まん』
『ごめん』
そうなんだけど。わたしが冗談はいいって言ったんだけど。……だって、ゆらちゃんが、わたしのことをなんて。
『その沼、人間連れてくとやばいんだけど、俺いいやつだからさ。見せてやろーって思って一緒に見たら、おまえめちゃくちゃ過呼吸起こしながら死にたいって言ってるんだわ、目の前も隣もボロボロすぎて、本気で地獄だった』
『……まって、知ってるの?』
『じつはね』
『……』
見られたくないところを、見られたくないひとに見られていた。ふうー、と長く息を吐きながら、なんてことしてくれるんだと思った。楡に、というよりも、プライバシーの欠片もない向こうのせかいに。


