わたし以外の前では透明、というのは、辻褄が合う。現実味は全然ない。でも。
──ヒカワユラ。
言われた瞬間、心臓がいやがるみたいに大きく跳ねた。
『どうして、楡が知ってるの』
『あいつを地獄まで連れてったのは俺だから』
『……地獄?』
『あんな、地獄も天国もどこにしても、死後のせかいって案外おかしいんだわ。俺は悪魔だから天国のことはそんなにわかんねえけど、天国には残酷なくらい幸せなやつしかまともに生きてけねえよ。たぶんな』
幸せだから罪を犯そうとも考えつかなかった人間や、その後の自分が怖いからと罪を犯せなかった人間の多くいるとこなんだ。そこに、自殺──、自らを殺せるような、言い換えりゃ殺人の犯せる人間を真っ白な天使サマが連れてくと思うか? そんなもんなんだよ。まあ、実際見てないとわかんねえか。
『つっても、これは悪魔の言い分。俺は天国には行けねえし、俺も実際には見てないからよくは知らん。悪魔たちが天使サマたちをわるく言いたかっただけでもあるんだろうな』
悪魔が記憶を操作するなどの都合のいいようにする行為は、呪いのようなものなのだと言う。眠り姫がキスで目の覚めたら終わりなように、わたしは痛みで正気に戻って覚めたんだ、って。
だから集合写真から楡が消えたんだ、って。
わたしにとっての楡という存在は、楡がわたしの記憶に書き足したものらしい。そう言われるとだいぶ怖いんだけど。どこまでがほんとうに楡と過ごしたものなんだか。
でも確かに、思えばおかしなところばかりだった。たとえば、わたしは楡の名前を知らない。楡という苗字しか、知らない。
名前は、と思ったけれど聞かなかった。学校にいればフルネームが呼ばれるタイミングなんてたくさんあったはずなのに覚えてない、ということは、定まってないんじゃないか。それを楡から直接に突きつけられたら、きっと、楡のすべてを疑い始めるのだろうなとか怖くなって。


