「面白かったー!」

「だな。……はあ」

「わたしの前で泣いたのが悔しいからって、ため息つかないの」



上映中。クライマックスのシーンで隣から鼻をすする音がして、思わず横を見たら泣いていた。あわててポケットティッシュを差し出したら、俺も持ってる、って。たぶんわたしも泣いてたから、自分で使えってこと。



「いっぱい泣いちゃったね」

「涙ってくそまずいのな、ポップコーンがろくな味せんかった」

「ココア味にしなくてもいいなあって、最初の時点で思ったよ」

「そりゃ残念」



帰るかあ、と楡がつぶやく。そうだねえ。わたしも返して、家に帰ったら、また、今日の楽しかったことを思い出して寂しくなって、夜眠るときにはもっともっと寂しくなって、しまう、きっとなあ。と思った。



楽しいときには楽しいことだけ考えていたいのに、どうしても苦しさが顔を出すのはどうしてだろう。



「俺、高良に提案があんだけど」

「うん?」

「遺書、書かん?」

「いしょ」

「おー。俺からしてもおまえからしても、まだ全然気ぃ早いけどさ。練習みたいな。そいで俺、おまえに渡すわ」

「なんでまた突然に」

「映画、感動しすぎてさあ。涙で溺れて死ぬかと」



だから遺書。なるほど。唐突すぎてとっさに漢字変換できなかったのが、やっと繋がってきた。