拝啓 

 春の日差しが温かく感じられるこのよき日を あなたはどのような心持ちで迎えているのでしょう
 今日はあなたにとって幸せな日なのです 今はまだわからないかもしれませんが とにかく今日のあなたは幸せ者です
 
 たぶん私はあなたがこの手紙を受け取った まさに今日が人生最良の日です 一方で人生最悪の日でもあります みんなと同じ高校生活を描き歩んでいるのです 私にとってそんな素敵なことはありません

 さらにいえば ヒロくんと同じクラスになれたではありませんか 見ているだけで幸せで 隣に立ったら顔を赤らめてしまうような ヒロくんと同じクラスになれたではありませんか ああ まさに青春なのであります

 誰が一緒なのかに心躍らせ 心曇らせ 一喜一憂できる私はなんて幸せだったのでしょう 心うごかせるってとても幸せなことなのですよ

 帰り道にトラックがやってきて 私は今日起きた幸せを ゆっくり ゆっくりと思い出しました 3年生になったこと ヒロくんと同じクラスになったこと お弁当にイチゴが入っていたこと 思い出すと頬を涙がつたいました 右手を母が 左肩を父が触れています ああ なんと温かく愛にあふれた手なのでしょう こんな年になって両親と触れあえる私は幸せです

 兄も妹も 祖父も祖母も みんなここにいるのがわかります もうなにも見えてないけど 息づかいが聴こえるのです みんないるって幸せなんですよ ありがとうと言いたいのに 口が動かせません 腹から息も上がりません なぜなのでしょう こんなに気持ちはたかぶっているのに

 私は高校3年生になれました みんながなれるわけではないのですね 最後の学校祭も最後の体育祭も ちょっと苦しい受験勉強だって あなたのことを待っていた 今日はそんな 高校生活最後の最高の1年がはじまった記念すべき日なのです

 そして私が私を終える記念日なのです

 もうそろそろ 心うごかす幸せが 私から離れていきそうです お父さんお母さん お兄ちゃんゆっちゃん おじいちゃんおばあちゃん みんなありがとう

 そしてヒロくん あなたと幸せになってみたかった 

 今日は みんなの愛を知った幸せで良い日
 そして私が私を終わらせた、最悪の日です。

                    敬具
         丑三つ時 午前2時の私より