「あなただ」



 目を見開く。ベッドの上で横たえる虹島くんの姿は気怠げで、そして哀愁に満ちていた。ムードにそぐわぬ無機質なライトが夕刻に煌々と私たちを照らすのが目障りで、もう拝めないかもしれないというのに自らその光を絶った。

 閉めたカーテンの向こうから斜陽が射している。

 生きている。生きろ、死にたくてなっても生きろ。
 そんな生命力に満ちたひかりだった。


「……やっと終われる」

「虹島くん」

「知っていました。救うことはできてもそれは俺が追い求めなかったどうでもいい有象無象に対してだと。きっと本当に救いたいものにこの力は叶わない、但し、俺の呪いは本命との逢瀬で(ほど)けます」

「…」

「神さまがいたとして、俺は許しませんよ。文句言ってやります、もうすぐ」

「…あなた、ずっと死にたがってたの」


 曖昧に小首を傾げられた。なんだか泣いているような気がして、手を伸ばしてその頬に触れると、彼はやわらかく微笑んだ。私の手に自分の手を重ね、目を閉じ、そしてそっと口遊む。


「最後の相手が月子さん(ほんめい)って、
 なんか運命的じゃないですか?」

「…趣味が悪いのね」

「ほんとにね、全く」

「否定するところよ、虹島くん」


 瞼が重い。まだ寝ている場合ではないのに、物凄い睡魔に襲われて何とか抗おうとする。この睡魔に屈したら終わりだ。もう二度と彼と逢瀬は叶わないだろう。その確信だけがあった。だから笑いながら涙が流れて、私の人生の何の特別にもならなかったあなたのことを抱きしめた。
 頭だけを閉じ込めて震えているその身体を強く繋ぎ止めて、呼び掛ければ「来世で」と告げられる。


「来世で会いましょう、月子(つきこ)さん」

「じゃあ、迷わなくて済むようにあなたの名前をちゃんと教えて」

「とわです」

「とわ?」


「虹島永遠(とわ)