「酷い人だな、金目的のやり口だ」
「いたいいたい! 離して、虹島く」
べい、とベッドに放り投げられて横倒しになった私の横にギ、と彼が手を置いた。ぎしりとベッドが音を立てて、上に跨ってきた虹島くんの髪から落ちた雫が私の頬にぽた、と落ちる。
「悪いようにはしません。覚悟決めてください」
「いや…無理、やめて。私もう42なの、おばさんなの。わかるでしょ」
「俺も事実上は40です。見た目は20ですけど」
「そこがもうよくわからないのよ!」
「もうわからないひとだなー若い男とヤれるだけラッキー♡ でいいじゃないですか」
「いいわけないでしょうちょっと!!」
バスローブの前をしきりに開こうとしてくる虹島くんと懸命に閉じようとする私とで謎の攻防戦が始まって、ぶんぶん顔を左右に振っていたら「生娘みたいで可愛いな〜」「嫌がられると燃えちゃうな〜」とか言っていた。おかしい。何もかもおかしい。何もかもおかしいからこそ流されやすい自分に嫌気がさして、狭い視野のなか目一杯抵抗したら彼の目と視線が合わさった。
「本当に酷いひと、人の気も知らないで幸せになったくせに」
「え、」
「隙あり」
がば、と前を開かれて目を見開く。真っ青になって手で隠そうとしたら繋ぎ止められ、代わりに唇を塞がれた。命を分け与えるようなキスだった。淡く、深く。一度重なり、解け、そしてまた合わさって、抗おうとするのに逃げられない。震える。怖い。恐ろしい。何もかも正しくなく間違っているはずなのに、狭い視野の中を二十年前と同じ顔をした人間が、私の上で満足そうに笑っている。
「頭ん中空っぽにしてください。いいですか余念は禁物です。
全部終わったら答え合わせをしてあげます」
次に目を覚ましたとき、視界が開けて嘘みたいに鮮明になっていた。