「…のろ、い」
「魔法です。噂を聞きませんでしたか。二十年前、俺と関係を持った女性陣が忽ち人生上々になってたこと」
知っている。ここで話題に出すのもなんだが、症状改善の内容としてはただ皮膚病が治ったとか、便秘が改善されたとか、なんだかそんな平和な話だ。いや、これらを卑下するわけではないけれど、シンプルにこの、虹島という男と関係を持ったことで女性ホルモンがどうにか左右されて緩和されただとか、その程度じゃないだろうか。信憑性に欠ける。
…唯一、風の噂で聞いた、余命宣告を受け休学中だった女子生徒が、数年遅れて復学した事実を除いては。
「男はね、だめなんですよ。俺が男なので、出来んことはないですが負担が大きくうまくいきません。なので目に入る範囲で頑張っていました。彼女たちは喜んでいました、俺は虚しかったですけど」
「…、まぐれでしょう?」
「試してみます?」
にこり、と微笑んだ虹島くんがそっと私に迫ってくる。いや、うん。え。ぐ、と距離を詰められて押し倒されれば私は慌ててその胸を押し返した。
「待って、やめて!!」
「1から10まで説明させますか? だから要するに俺の下半身には魔法が宿っていて女の子限定で不幸を払拭出来ます、男はダメです俺が男なので、先輩はその対象としてクリアです。助けてあげますんで助けてくださいよ〜もう人生疲れちゃいました」
「何言ってるの!? 言ってること最低なんだけどそれにこんなところで」
「確かにムードは大切だ」
ひょい、と起き上がると彼はうーん、とこの狭苦しい家を物色して私の腕を持った。抵抗する間も無く立たされて、そして腕を掴まされる。
「じゃ、行きましょう」
「どこへ」
「いいとこ」
(…なんで?)
連れられるがまま訪れたよくわからない場所、それは恐らくホテル、ラブの付くもので、先にどうぞ、と言われるがままシャワーを済ませてベッドに座っている自分が生々しくて怖気てくる。血の気まで引いてきた。視野がどんどんこうしてる間にも狭まっているというのに、私は何をしているというのだ。いや、終わりを迎える前に楽しんでおくのもありか。いやなしだ。
混乱しながら慌てて荷物を抱えて靴下を履き、着てきた上着を羽織って外に出ようとしたらバスルームから出てきた虹島くんと運悪く鉢合わせた。