「おはよう、きょうちゃん。今日はよく眠れた?」
「あはよう。うん、よく眠れたよ。ごめんね、ありがとう。」
何気無い、当たり前の会話に感動する。
「なあに、響也。謝ることなんて無いさ。そこは『ありがとう』だけでいいんだよ。」
「でも、僕が急に来たから迷惑だったでしょう?」
「なあに言ってんだ。迷惑だなんて微塵も思ってないよ。なあ、母さん。」
「うん、そうよ。朝起きたらきょうちゃんがいることだけで私たちは幸せだからね。」
そうは言ってくれるものの。
昨日の僕は本当に最低だ。
急に、10年ぶりに孫が会いに来たと思えば『行くところが無い』だなんて。そんな僕を温かく迎え入れてくれただけでも、もう十分なのだが、夜ご飯や風呂、布団まで用意してくれた。相当な重労働だろう。しかも、育ち盛りの男子高校生、1人が1ヶ月間も増えるとしたら、食費にいくらかかってしまうんだ。ただでさえ年金暮らしの祖父母の負担になってしまう。
僕の心は、祖父母に対しての申し訳なさでいっぱいだった。
そんな僕の心中を悟ったのか、祖母は僕の背中をパシッと叩いて言った。
「きょうちゃん。きょうちゃんが何も思う必要はないのよ。ばあちゃんは、きょうちゃんが生きてくれてるだけでいいから。一緒にご飯を食べて、一緒にお話しをして、それだけで十分。だから、ね‼︎」
そう言った祖母の瞳に、嘘は無かった。
「……う、ん!」
満足そうに笑う祖父母。
「響也。朝ご飯は響也の好きな肉じゃがに、魚の煮物に、エビフライだ。さあ、一緒に食べよう。」
「え、僕の好きな食べ物…なんで」
「ふふ、きょうちゃんが1年生の時?かな。好きって言ってよく食べてたの。父さんてば、ずぅっと覚えてたのよ。」
「そう、なんだ」
母さん、それは響也に言わないで欲しいって今さっき言っただろう、と祖父が恥ずかしがりながら祖母に告げている。
ーーああ、なんて温かいのだろう。
「朝からこんなに食べられないよ。」
照れ隠しで言ってみる。
「そんなこと言って。昨日は全部きれぇいに食べてくれたじゃない。」
ちらちらとこちらを見てくる祖父母。
お返しに、むっとした顔をしてみる。
それがなんだか面白くて、朝から3人で笑いながら席についた。
「ふう、お腹いっぱい……もう食べれん………」
「やっぱり全部食べたわね。」
にやにやとしながら見てくる。
「だって残すだなんて勿体ないし。それに、食品ロスになっちゃうでしょう?」
はいはい分かりましたよ、と言いながらもふふ、と笑う祖母。
祖母の手には、汚れた皿とスポンジがあった。
「あ、洗い物。手伝うよ。」
「え、いいのよ。だいじょ……」
僕の気持ちを慮ってか、じゃあお願いしてもいいかな、と言ってくれた。
断っても僕がしつこく手伝うよ、と言う姿が目に見えたらしい。
祖母には気を遣って貰ってばかりだ。それがとても申し訳ない。
洗い物なんてちょっとしたものは、少しでも祖母の手伝いになれば、と思ってしているだけの自己満足だ。
はあ。
僕はどうしてこんなのなんだろう。
僕が存在しているだけで周りに迷惑を掛けてしまう。
僕が居なくなれば良い。ただ、それだけの事なのに。
たとえ、あの家から居なくなったとしても今度は祖父母の家に迷惑を掛ける。
僕のせいで。
僕がこの世界に存在しているせいで。
思わず暗い気持ちになってしまった自分を叱咤して、手が止まっていた洗い物を再開した。
「おばあちゃぁん。洗い物、終わったよー」
よっこらしょ、というふうに立ち上がって僕の居る台所の方へと向かってきた。
「きょうちゃん、ありがとう。本当に助かったわ。それじゃあ、外に出て散歩でもしてきたら?」
そんなの悪いよ、と言う僕を、今日はお天気がとても良いしなにせ10年ぶりでしょう?気にせずにほらほら、と祖母は僕の背中を無理に押して外に出した。
おばあちゃんはそう言ってくれたけれど、実は僕が邪魔だったのかな。ずっと家に居ても困るだけだもんね。
いけない。
ひねくれモードを発動してしまった。
あの祖母のことだ。そんな風に思う筈が無いのに。
僕の悪い癖だ。
すぐにもしかしたらあの人のあの言葉の裏で、こう思ってるんじゃないか、ああ思ってるんじゃないか、と考えてしまう。
はあ。
何度目かも分からない溜息を吐く。
嫌いだ。
こんな自分。
大嫌い。
またまた暗い気持ちになりどんよりとした雰囲気で碧い島を、黒いスニーカーで歩いた。
さて、どうしたものか。
不意に、昨日出逢った彼女のことが脳裏に浮かぶ。
あの、全てを見透かすような真っ直ぐな瞳。
あの、この暑い世界に溶けてしまいそうな笑顔。
僕が今までの人生の中で初めて会ったタイプの女の子。
そういえば、と大事なことを思い出す。
彼女は"また明日"と言っていた。
昨日の明日は今日か。
いや、待てよ。
キノウ、アシタ、キョウ?
今日?
今日ってこと?
いやいやいや。
あの言葉は本気ではないだろう。
彼女の戯言かもしれないじゃないか。
でも。
いや待てよ?
って!何を迷っているんだ⁈葵響也‼︎‼︎
いやいやいや、まさかな、と思いつつも、僕の足は昨日のあの場所へと無意識に動いていた。
「あはよう。うん、よく眠れたよ。ごめんね、ありがとう。」
何気無い、当たり前の会話に感動する。
「なあに、響也。謝ることなんて無いさ。そこは『ありがとう』だけでいいんだよ。」
「でも、僕が急に来たから迷惑だったでしょう?」
「なあに言ってんだ。迷惑だなんて微塵も思ってないよ。なあ、母さん。」
「うん、そうよ。朝起きたらきょうちゃんがいることだけで私たちは幸せだからね。」
そうは言ってくれるものの。
昨日の僕は本当に最低だ。
急に、10年ぶりに孫が会いに来たと思えば『行くところが無い』だなんて。そんな僕を温かく迎え入れてくれただけでも、もう十分なのだが、夜ご飯や風呂、布団まで用意してくれた。相当な重労働だろう。しかも、育ち盛りの男子高校生、1人が1ヶ月間も増えるとしたら、食費にいくらかかってしまうんだ。ただでさえ年金暮らしの祖父母の負担になってしまう。
僕の心は、祖父母に対しての申し訳なさでいっぱいだった。
そんな僕の心中を悟ったのか、祖母は僕の背中をパシッと叩いて言った。
「きょうちゃん。きょうちゃんが何も思う必要はないのよ。ばあちゃんは、きょうちゃんが生きてくれてるだけでいいから。一緒にご飯を食べて、一緒にお話しをして、それだけで十分。だから、ね‼︎」
そう言った祖母の瞳に、嘘は無かった。
「……う、ん!」
満足そうに笑う祖父母。
「響也。朝ご飯は響也の好きな肉じゃがに、魚の煮物に、エビフライだ。さあ、一緒に食べよう。」
「え、僕の好きな食べ物…なんで」
「ふふ、きょうちゃんが1年生の時?かな。好きって言ってよく食べてたの。父さんてば、ずぅっと覚えてたのよ。」
「そう、なんだ」
母さん、それは響也に言わないで欲しいって今さっき言っただろう、と祖父が恥ずかしがりながら祖母に告げている。
ーーああ、なんて温かいのだろう。
「朝からこんなに食べられないよ。」
照れ隠しで言ってみる。
「そんなこと言って。昨日は全部きれぇいに食べてくれたじゃない。」
ちらちらとこちらを見てくる祖父母。
お返しに、むっとした顔をしてみる。
それがなんだか面白くて、朝から3人で笑いながら席についた。
「ふう、お腹いっぱい……もう食べれん………」
「やっぱり全部食べたわね。」
にやにやとしながら見てくる。
「だって残すだなんて勿体ないし。それに、食品ロスになっちゃうでしょう?」
はいはい分かりましたよ、と言いながらもふふ、と笑う祖母。
祖母の手には、汚れた皿とスポンジがあった。
「あ、洗い物。手伝うよ。」
「え、いいのよ。だいじょ……」
僕の気持ちを慮ってか、じゃあお願いしてもいいかな、と言ってくれた。
断っても僕がしつこく手伝うよ、と言う姿が目に見えたらしい。
祖母には気を遣って貰ってばかりだ。それがとても申し訳ない。
洗い物なんてちょっとしたものは、少しでも祖母の手伝いになれば、と思ってしているだけの自己満足だ。
はあ。
僕はどうしてこんなのなんだろう。
僕が存在しているだけで周りに迷惑を掛けてしまう。
僕が居なくなれば良い。ただ、それだけの事なのに。
たとえ、あの家から居なくなったとしても今度は祖父母の家に迷惑を掛ける。
僕のせいで。
僕がこの世界に存在しているせいで。
思わず暗い気持ちになってしまった自分を叱咤して、手が止まっていた洗い物を再開した。
「おばあちゃぁん。洗い物、終わったよー」
よっこらしょ、というふうに立ち上がって僕の居る台所の方へと向かってきた。
「きょうちゃん、ありがとう。本当に助かったわ。それじゃあ、外に出て散歩でもしてきたら?」
そんなの悪いよ、と言う僕を、今日はお天気がとても良いしなにせ10年ぶりでしょう?気にせずにほらほら、と祖母は僕の背中を無理に押して外に出した。
おばあちゃんはそう言ってくれたけれど、実は僕が邪魔だったのかな。ずっと家に居ても困るだけだもんね。
いけない。
ひねくれモードを発動してしまった。
あの祖母のことだ。そんな風に思う筈が無いのに。
僕の悪い癖だ。
すぐにもしかしたらあの人のあの言葉の裏で、こう思ってるんじゃないか、ああ思ってるんじゃないか、と考えてしまう。
はあ。
何度目かも分からない溜息を吐く。
嫌いだ。
こんな自分。
大嫌い。
またまた暗い気持ちになりどんよりとした雰囲気で碧い島を、黒いスニーカーで歩いた。
さて、どうしたものか。
不意に、昨日出逢った彼女のことが脳裏に浮かぶ。
あの、全てを見透かすような真っ直ぐな瞳。
あの、この暑い世界に溶けてしまいそうな笑顔。
僕が今までの人生の中で初めて会ったタイプの女の子。
そういえば、と大事なことを思い出す。
彼女は"また明日"と言っていた。
昨日の明日は今日か。
いや、待てよ。
キノウ、アシタ、キョウ?
今日?
今日ってこと?
いやいやいや。
あの言葉は本気ではないだろう。
彼女の戯言かもしれないじゃないか。
でも。
いや待てよ?
って!何を迷っているんだ⁈葵響也‼︎‼︎
いやいやいや、まさかな、と思いつつも、僕の足は昨日のあの場所へと無意識に動いていた。