僕たちは少しずつ準備を始めた。
作戦は至ってシンプルだ。
第一段階として、僕たちはこの計画を打ち立てた国とあらゆるメディアに抗議のメールを送った。これは僕らがデジタルネイティブ世代といわれる子供達であることを象徴しつつ、一番手っ取り早いやり方だった。
僕たちはとても悲しんでいるということ、バディを組んだアンドロイドと仲良くなるまでに既に多くのことを学んだ事、命の大切さを考えるなら停止ボタンを押さなくてもいい選択肢を与えてくれてもいいだろうということ、なにより、こんなのは間違っているということ。
どうして僕らを引き離そうとするのか、涙ながらに訴える子供を世間の大人はきっと無視しない。
今になって思うと随分と小賢しい手段を講じたものだと思うけれど、意外とあの年代の子供というのは、大人達が考えているよりももうずっと大人なのである。
僕らの送ったメールは思いの外効果を見せて、テレビでもこの計画の是非を問うような番組がちらほら散見されるようになった。
なかには僕たちに賛同してくれる声もあって、僕とミカちゃんは互いに喜びあったりもした。
これで国側が方針を変えて、このままゼロと一緒にいさせてくれたなら、それが最善の結果といえた。
しかし世間が多少声を上げたところで、計画の変更や中止がなされることはなかった。
僕たちは『大人というのは奇妙なほどに予定調和を重んじる生き物で、責任と口にする割には無責任な生き物だ』ということを学んだ。
仕方がないので僕たちは最後の手段に出ることにした。
ゼロを連れて立て篭もるのだ。
抗議デモってやつだ。
こんなのは間違っていると伝えること、声を上げること、知ってもらうこと。
愚策といってしまえば愚策だった。
しかし当時小学六年生だった僕らに、いったいこれ以上どんな手立てがあったというのだろう。
僕らの行動にゼロの命運がかかっている。
言ってしまえば彼の余命は残り幾ばくもないという状況で、その命の残数を決められるのは僕ら人間でしかない。僕らはゼロの命を弄ぼうとする大人達から彼の命を、そして笑顔を守るため、戦わなければならない。
当然ながら恐怖はあった。
不安もなくはなかった。というか大いにあった。
それでも、今更引くわけにはいかなかった。
「やるっきゃないね」
「うん」
立て篭もり決行の前日、僕たちは秘密基地であるバンの前にいた。どうせ立て篭もるなら、慣れ親しんだこの地を戦いの場にしようと二人で決めた。僕たちはバンの中に最後の物資を運び込んだのち、計画の確認をして、外からボロボロのバンの姿を眺めていた。
心細いような気がして、僕は隣に立つミカちゃんの手を握った。
僕は驚いた。その手は微かに震えていた。
当たり前の話だった。
いくら勝ち気な性格である彼女とはいえ、スーパーヒーローでもなんでもない、ただの普通の女の子なのだ。怖くなかったはずがない。こんなに真っ向から大人に反抗するというのは初めてのことだったのだから。
一番身近にいてくれたはずの彼女のことを、僕は何も見ていなかったのだと気付き、そういう自分を心から恥じた。
男だからとか女だからとか、そういうのは嫌いだけれど、僕はやっぱり男だから、ミカちゃんのこともゼロのことも守りたいと思った。
そうやってなけなしの勇気を奮い立たせることで、僕はようやく自分をしっかりもつことができた。

準備は整った。
僕たちは何食わぬ顔で日々を過ごし、親や先生を騙くらかしてきた。
そうしていよいよ、明日が決着の時である。
僕たちの戦いが静かに幕を開けようとしていた。