僕はひとつ重要なことを忘れていた。それは、あの2人が、この学校で1番人気の高い女子なのだと言うこと。そんな生徒が読書同好会なんていう、今まで聞いたことすらなかった部活に入ったと生徒に知られたら、面倒くさいことになるのは、誰の目にも明らかだった。本に興味もないのに入部を希望してきたり、ひっそりと活動していたこの教室を知られたり、、、。
そんなことになったら、僕の平穏な(ぼっちではあるが)学校生活が失われてしまう。そんな事態だけは避けなければならない。
「センパイ、ひとつお願いがあるんですけど」
「桜くんからお願い〜?珍しいね」
「面白そうだし、聞いてみよっか」
なんか、小馬鹿にされた気がするけど、背に腹はかえられない。僕はセンパイに、おそらく一生のうち最初で最後のお願いをした。
「センパイ方が読書同好会に入部することは、教師以外誰にも言わないでください」
・・・
あれ...?
「なーんだ、そんなことか。もうちょっと、面白いこと期待したのに」
「そんなことかぁ。って言うか、私たち、誰にも言うつもりないし〜」
「私も元々言うつもりじゃなかったのだが」
はぁぁぁ。それなら、こんなセンパイたちにお願いなんてするんじゃなかった。ほんっとに損した。
「なーんだ。ならいいです、忘れてください」
そう言うが、もう手遅れだったようだ。2人揃って、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
「へ〜、他人に興味なさそうな桜くんも、気にするんだね〜」
「桜の面白い一面を見たなぁ...」
「まあ、それに、言ってたしね。僕は桜優希(さくらゆうき)。前髪が長く、メガネで根暗な陰キャ男子なんですって。あの時に感じたもん、ぼっちのオーラ。だからかなぁ、そんなこと気にするの」
ああ、あの時の言葉が、からかわれるネタになってしまうとは。失敗した。
センパイが謝りに来た次の日。その日は、特に用もないのに、休憩場所として使おうとでも思って、この教室にきたのだろう。僕はそう推測した。だから、だからこそ、言ったのだ。
「僕は前髪が長く、メガネで根暗な陰キャ男子ですよ。そんな奴がいる教室、来なくでいいじゃないですか。」
と。一応、自己紹介もした。名前だけだけど。
それが、今このように使われてしまうとは。面倒くさいなぁ。
「...めんどくさっ」
「ん?桜くん、何か言った?」
「いえ何も」
つい本心が。気をつけないと。
ガラガラ、とドアが開く音がして、司書兼読書同好会顧問の小坂ふみ先生が教室に入ってきた。
「調子はどうって、またいるのね、お2人さん?今日は、どうしたの?」
「今日こそ、入部届を出そうと思って!タイミングバッチリです、ふみせんせ〜」
「あら、今日はまともな理由があったのね」
小坂先生は、あまり見せない驚いた顔をしていた。それもそのはず、この2人は、顧問にまでも、教室にただ入り浸ってる人だと思われていたのだから。
「ってことは、もう、2人を追い出す必要ないのね。まあ、前までも結局出て行ってなかったから、実質変わりはないでしょうけど」
小坂先生は、おっとりした見た目で、性格もおっとりしていて、怒ることなんて滅多にないけど、普段から毒舌というか、なんというか。とりあえず、まあ、不思議な先生だ。「イメージ通りじゃない」「なんか、ねぇ」みたいなこと言って、小坂先生を敬遠している人もいるけど、思ってることを正直に言ってくれるのに、見た目おっとりしている感じが、僕的には、先生としていいのではないかと思っている。だからこそ、この先生に顧問をお願いした。「面白い子だね」と言って、顧問の件は一瞬で引き受けてくれた。でも、適当だったわけじゃなくて、意外とちゃんと見てくれている。なんで、この先生が敬遠されているのか、僕はよくわからない。
「そうだ。私がこの部活に出している課題、知ってる?」
「いえ?そんなのあったんですか?」
「ええ、もちろん。部活動なんだから、顧問に活動報告をしなくちゃね?」
うげーみたいな顔をしているお2人。本当に、この2人はこの部活を何だと思っているのだろう。特に何もしなくていい〜、楽そう〜とか思われているのだとしたら、間違いだし、そもそも部活に対して失礼だ。あと僕にも失礼。
「そうですよ。僕がいっつも本を読んでいるのは、課題があるからっていうのもあるんです。」
そして僕は、この部活のエグイ課題内容を伝えた。月最低でも10冊本を読んで、感想をノートに書いて提出すること。そのうちの1冊の紹介文を書くこと。あと、司書の仕事の手伝いとして、たまに図書館で仕事をすること。最後のは、顧問の話を引き受けてもらう時に付けられた条件だ。完全に、小坂先生が楽したいだけというのが、ちょっと癪に障るが、仕方ない。
「この部活、結構ハードなんですよ。センパイ方、やっぱやめといたらいいんじゃないですか?」
「え〜、やめないよ?言ってるでしょ、私、読書好きなんだって。別に言われなくとも月10冊弱読んでるから、少し頑張れば読めるし」
「それに、私たち優等生だから、作文とかも得意なわけで。だから、心配には及ばない」
自分で優等生とか言っちゃうあたり、嫌われそうなものだが、坂野センパイが言うと、自慢に聞こえないし、自分を茶化しているようでもあるから、生まれたてで陽キャなんだ、きっと。もしくは、聖人並みに性格がいいか。いや、それはないか。
とりあえず、センパイ方の入部を阻止しようとするささやかな抵抗も虚しく、結局入部が受理され、読書同好会の部員は、3人になったのだった。
そんなことになったら、僕の平穏な(ぼっちではあるが)学校生活が失われてしまう。そんな事態だけは避けなければならない。
「センパイ、ひとつお願いがあるんですけど」
「桜くんからお願い〜?珍しいね」
「面白そうだし、聞いてみよっか」
なんか、小馬鹿にされた気がするけど、背に腹はかえられない。僕はセンパイに、おそらく一生のうち最初で最後のお願いをした。
「センパイ方が読書同好会に入部することは、教師以外誰にも言わないでください」
・・・
あれ...?
「なーんだ、そんなことか。もうちょっと、面白いこと期待したのに」
「そんなことかぁ。って言うか、私たち、誰にも言うつもりないし〜」
「私も元々言うつもりじゃなかったのだが」
はぁぁぁ。それなら、こんなセンパイたちにお願いなんてするんじゃなかった。ほんっとに損した。
「なーんだ。ならいいです、忘れてください」
そう言うが、もう手遅れだったようだ。2人揃って、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
「へ〜、他人に興味なさそうな桜くんも、気にするんだね〜」
「桜の面白い一面を見たなぁ...」
「まあ、それに、言ってたしね。僕は桜優希(さくらゆうき)。前髪が長く、メガネで根暗な陰キャ男子なんですって。あの時に感じたもん、ぼっちのオーラ。だからかなぁ、そんなこと気にするの」
ああ、あの時の言葉が、からかわれるネタになってしまうとは。失敗した。
センパイが謝りに来た次の日。その日は、特に用もないのに、休憩場所として使おうとでも思って、この教室にきたのだろう。僕はそう推測した。だから、だからこそ、言ったのだ。
「僕は前髪が長く、メガネで根暗な陰キャ男子ですよ。そんな奴がいる教室、来なくでいいじゃないですか。」
と。一応、自己紹介もした。名前だけだけど。
それが、今このように使われてしまうとは。面倒くさいなぁ。
「...めんどくさっ」
「ん?桜くん、何か言った?」
「いえ何も」
つい本心が。気をつけないと。
ガラガラ、とドアが開く音がして、司書兼読書同好会顧問の小坂ふみ先生が教室に入ってきた。
「調子はどうって、またいるのね、お2人さん?今日は、どうしたの?」
「今日こそ、入部届を出そうと思って!タイミングバッチリです、ふみせんせ〜」
「あら、今日はまともな理由があったのね」
小坂先生は、あまり見せない驚いた顔をしていた。それもそのはず、この2人は、顧問にまでも、教室にただ入り浸ってる人だと思われていたのだから。
「ってことは、もう、2人を追い出す必要ないのね。まあ、前までも結局出て行ってなかったから、実質変わりはないでしょうけど」
小坂先生は、おっとりした見た目で、性格もおっとりしていて、怒ることなんて滅多にないけど、普段から毒舌というか、なんというか。とりあえず、まあ、不思議な先生だ。「イメージ通りじゃない」「なんか、ねぇ」みたいなこと言って、小坂先生を敬遠している人もいるけど、思ってることを正直に言ってくれるのに、見た目おっとりしている感じが、僕的には、先生としていいのではないかと思っている。だからこそ、この先生に顧問をお願いした。「面白い子だね」と言って、顧問の件は一瞬で引き受けてくれた。でも、適当だったわけじゃなくて、意外とちゃんと見てくれている。なんで、この先生が敬遠されているのか、僕はよくわからない。
「そうだ。私がこの部活に出している課題、知ってる?」
「いえ?そんなのあったんですか?」
「ええ、もちろん。部活動なんだから、顧問に活動報告をしなくちゃね?」
うげーみたいな顔をしているお2人。本当に、この2人はこの部活を何だと思っているのだろう。特に何もしなくていい〜、楽そう〜とか思われているのだとしたら、間違いだし、そもそも部活に対して失礼だ。あと僕にも失礼。
「そうですよ。僕がいっつも本を読んでいるのは、課題があるからっていうのもあるんです。」
そして僕は、この部活のエグイ課題内容を伝えた。月最低でも10冊本を読んで、感想をノートに書いて提出すること。そのうちの1冊の紹介文を書くこと。あと、司書の仕事の手伝いとして、たまに図書館で仕事をすること。最後のは、顧問の話を引き受けてもらう時に付けられた条件だ。完全に、小坂先生が楽したいだけというのが、ちょっと癪に障るが、仕方ない。
「この部活、結構ハードなんですよ。センパイ方、やっぱやめといたらいいんじゃないですか?」
「え〜、やめないよ?言ってるでしょ、私、読書好きなんだって。別に言われなくとも月10冊弱読んでるから、少し頑張れば読めるし」
「それに、私たち優等生だから、作文とかも得意なわけで。だから、心配には及ばない」
自分で優等生とか言っちゃうあたり、嫌われそうなものだが、坂野センパイが言うと、自慢に聞こえないし、自分を茶化しているようでもあるから、生まれたてで陽キャなんだ、きっと。もしくは、聖人並みに性格がいいか。いや、それはないか。
とりあえず、センパイ方の入部を阻止しようとするささやかな抵抗も虚しく、結局入部が受理され、読書同好会の部員は、3人になったのだった。