私の頬を勝手に涙がつたう。止まらない。私もあんたに会いたいよ。会って、私の全部をあげて、代わりにあんたの全部を奪いたい。でも、もうそれはたぶん叶わない。あんだたけでも、何とか私の分まで生きて欲しい。酷なお願いかもしれないけど。あんたは私とそっくりだ。それなら、あんたが生きてくれれば私はまだ負けてない気がするんだよ、緒方。

「杏、すっごい泣いてるけど、それ誰からの手紙?」皐が私に声を投げる。
「私の初恋の子だよ」私は躊躇なくそう言った。
「いいな、杏、彼氏いたんだ。心配してくれる人いるんじゃん」
「彼氏じゃないよ、まだ告ってないし、されてもないし」
「何て書いてあったの?」
「それは……」

 言葉にしかけて、私は大変なことに思い至った。

 緒方は近いうちにここに転入しようとしている。

 この地獄に彼が来てしまう。

 ダメだ。それは絶対にダメだ。

「……マズい、何とかあいつに知らせないと」私は心臓の鼓動が高鳴るのを感じながら、言葉を落とした。
「え? どうしたの?」
「この手紙を書いた子が、ここに来るかもしれない。この学園の実態を知らせて止めないと」
「それが出来ないから、あたし達、絶望してるんじゃん! その手紙だって、開封されてたでしょ? 電話は出来ないし、手紙の内容もチェックされる。脱走も無理。どうやって知らせるの?」皐が表情を歪ませて、また泣きそうになって言った。
「でも、何とかしないといけないんだ。絶対に」

 緒方を殺されてたまるものか。

 私は便せんを握りしめたまま、部屋の奥に行き、床の隅の上に放り出してあったキャリーバックを開いた。

「何をする気なの? 杏」皐が立ち上がって私の方にやって来る。私はバッグから手帳とボールペンを取り出すと、すぐに床にぺったりと座り込んだまま、ペンを走らせる。
「彼に手紙を出す。ここに来るなって伝える」私は顔を上げて、すぐそばに立っている皐に言った。
「そんなの無理だよ! あたし達の出す手紙もチェックされるじゃん! 捨てられて終わりだよ!」
「分かってるよ。だから、そこは工夫する」
「工夫って……」皐は困惑した顔で私を見る。
「ごめん、今、文面考えるから黙ってて」