皐さんは立ち上がると、床に置いてあったピンクのキャリーバックを持つと、足取りも軽くフェリーターミナルの方へと歩いて行く。結構速い。私とほとんど同じ体格なのに。運動でもしていたんだろうか。私は青い自分のキャリーバッグを転がしながら彼女の後をついて行く。彼女は時折、私の方を振り返る。私を置いていかないように配慮しているのだろうか。

「私、腕力ないから、先に行っていいよ」
「いいって。どうせ同じ船じゃん。仲良く行こうよ」

 にこにこと笑って、皐さんがウインクした。

「このまま逃げようと思ったのに」と私は微笑する。

 そんな私を見て皐さんは一瞬、きょとんとした後、「またまた~」と言って私のところまで駆け寄り、私の左腕を取って破顔した。

「逃がさないよーだ♪」