「うん、ナミトクは治療行為の一環として、社会奉仕活動を生徒にさせてるんだって。その時、水産物の加工工場で、サバ缶作ったり、ダチョウの世話をしたりするんだって」
「S島は観光と漁業が主産業だから、サバ缶はまだ分かるよ。でもダチョウって何?」
「加藤さん、ぶっちゃけ、S島ってしょぼい島じゃん?」

 皐さんの言葉に、私はすぐに頷いた。

「観光と漁業だけじゃやってけないんだって。若い人は仕事ないから高校卒業したら皆、島を出ちゃう。だから、新しい事業としてダチョウ肉の生産を一昨年から始めたらしいよ」
「ダチョウ肉……食用なの?」

 てっきり、ダチョウ牧場って動物園みたいなものかと思っていた。

「うん、食べるんだって。すごいよね。あたし、そんな肉今まで売ってるの見たことない」
「私もないよ」
「そこそこ美味しいらしいよ。生でも食べられるんだって」
「全然興味が無い。私はフツーにフライドチキンがいい」
「だよねー、やっぱケンタが最高だよね。S島にはないから、がっかりだよ。もっと都会の学校が良かった」

 皐さんが、はぁと息を落とす。

「コンビニので我慢するしかないよ」
「あ、加藤さん、あたし達実習以外では基本外出できないらしいよ。だからコンビニも行けないよ」
「え? マジで?」私は皐さんの言葉に軽くショックを受ける。
「うん、あたし達ナミトクの生徒は全員、授業中は校舎、それ以外は寮か施設の中の庭でも散歩するしかないみたい。軟禁だよね」
「軟禁どころか、監禁だよ。何でそんなことになってるの? ひどくない?」
「あたしも詳しくは知らないけど、三年前にナミトクの生徒が近隣の人達ともめ事を起こして学校が閉鎖しかけたらしいよ。署名活動が今でもあるんだって。危険人物達をS島に連れて来るなって。それで困った学長が、生徒は基本、施設の外には出さないってことで今は妥協してもらってるらしいよ」

 どうやらS島の皆さんにとって、私達は厄介者らしい。

 いっそ閉鎖されれば良かったのに。

 私だって辺鄙な孤島より、本土の方がずっと良かった。

「あ、そろそろフェリーの時間だよ、行こう」