「今から行くナミトクって、普通の学校じゃないんだよね」

 私は彼女が落ち着くのを待って、質問をした。

「うん、ナミトクのトクは特別支援の特だからね」

 彼女はすぐに答えてくれた。

「何を支援してくれるの? はっきり言って、私は性格というか、心に訳アリなんだけど」
「あたしもそうだよ。ここは心か身体に何らかの障害を持った子達を集めて、その子達が一般社会でも生きていけるように、治療したり、教育したりするのが目的なんだって。だから、マトモになったと判断されたら、また普通の学校に戻されるみたい」
「何を基準にマトモって判断するんだろう」
「分かんないけど、あたしは心理テスト受けた。この模様は何に見えますか、みたいな」
「ロールシャッハ? 私は受けてないけど」
「ふーん、人によって違うのかな。加藤さんはまともそうだし」
「私は多分、一番マトモじゃないよ」
「そうは見えないけどなぁ」
「藤原――皐さんこそ、全然普通に見えるよ」ちょっとやかましいけど、と心の中で付け加えながら私は言った。「私は知らない人の顔色なんか気にかけない。敵かもしれない人にわざわざ近づいて話しかけない」
「敵?」皐さんがきょとんとした顔をする。
「そうだよ、私の知らない相手のデフォルト設定は敵なんだ」

 そう思うと、以前、緒方に自分から触れたあの瞬間は何だったのだろうと不思議に思う。無意識に同じ匂いを感じ取ったとしか思えない。好意が殺意へと繋がってしまう壊れた感情回路を持つ人間。和さんと緒方がそうだった。同族にしか好意を寄せられない。でも、好意を持ったら、いつか壊してしまう。失ってしまう。だから、緒方は心を閉ざして生きながら死んだように暮らしていた。和さんは引きこもって、自殺した。私はどうしよう。緒方と殺し合いにならないギリギリの人間関係を構築して、社会に適合しながら孤独を癒やしたかったかったけど、今となってはもうそんな生活もできない。これから通う学校で普通の人になればいいのだろうか。

 でも、それは私と言えるのだろうか。

 私って、何?

 普通って、何?

 分からないよ。

「――……で、実習で水産加工物の会社とダチョウ牧場の手伝いがあって」 
「え? ダチョウ?」

 皐さんの話を途中まで聞き逃していた私は、いきなり出てきた妙なキーワードについ聞き返した。