僕と加藤は三本のペットボトルのジュースと、カップのかき氷を買ってコンビニを出ると小走りで加藤の自宅を目指した。早く着かないとせっかくのジュースは温くなり、かき氷はただの色つき砂糖水になってしまう。手ぶらの加藤が僕を先導するように、制服のスカートを翻してかなりのスピードで歩道を走る。短めの裾がひらひらと舞って気になって仕方ない。僕はわざと顔を上げて、視線を夏空に、

 黒煙があった。

 僕達が走って行く先に、細く長い煙があった。僕達は一旦、脚を止めてその煙を見る。「火事?」と加藤が僕を振り返って訊いてきた時、後方からけたたましい音がして、僕達の真横を消防車と救急車が赤いランプを回転させながら、駆け抜けて行った。

「火事だな。もう通報されてるみたいだけど」
「嫌だな。近所っぽい」
「火元が加藤の家に近いとヤバい。確認しないと」
「うん。和さんだったら隣の家が燃えてても気づかずにゲームやってそうだし」

 僕達は、再び歩道を駆け出す。いつもならガラガラの歩道が、今はたくさんの人達であふれかえり、人口密度が大幅に増していた。この寂れた商店街にこんなにも人がいたのかと驚くほどだ。皆、僕達と同じ方向に向かって歩いて行く。どうやら目的は同じらしい。黒煙が青空を覆う面積が大きくなるにつれ、人混みも増えていく。僕達は人と人の間を縫うようにして、脚を運ぶ。加藤の家に近づけば近づくほど、人が増え、サイレンの音が大きくなり、煙が視界を埋める範囲が広がっていく。僕は口にはしなかったが、とてつもなく嫌なことを想像してしまう。加藤も同じなのか、暑さなど忘れたかのように、「どいてよ! どけ!」と叫びながら人混みを乱暴に両腕でかき分けるようにして進んでいく。だが、もう人が多すぎて走ることなどままならない。僕と加藤はそれでも、何とか黄色いテープと消防士達で遮断された火事の火の元の最前列までたどり着いた。

 加藤の家の庭の木々と駐車してあったベンツが燃えていた。

 何人かの消防士は「聞こえてるか?! 窓を割るから離れろ!」とベンツの車内に向かって叫んでいる。

「近づかないで! 爆発する恐れがあります! 皆さん、下がってください!」