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 昼食を終えて、ラーメン屋を出ると僕達は途端に灼熱の世界に舞い戻る。真上からは太陽の殺人光線が、真下からはアスファルトからの強い照り返しが、僕達を焼き上げようとしている。店を出て一分もしないうちに、僕達はまた汗まみれだ。とてもここにずっとは居られない。さりとて、制服姿で区民図書館や喫茶店に長居すると、下手をすると補導されるかもしれない。僕の家は専業主婦の母が居る。まだ帰るには早すぎる。

「加藤、お前の家で下校時間まで涼ませてくれ」
「いいよ、その前にコンビニ寄らせて。午後に振り込まれてるかもだし」
「分かった」

 僕達は銀河商店街のアーチをくぐると、オレンジと赤と紫の配色という自己主張の激しい電飾を看板にしたコンビニエンスストアに入った。店員はアルバイト風の若い男性で、制服姿の僕達を見ても何でもないような顔をして「いらっしゃませー」と感情のこもってない声で挨拶をした。たぶん僕達のように学校をサボってコンビニに顔を出す子供などもう見飽きているのだろう。加藤はきょろきょろと店内を見渡して、ATMを見つけると鞄から財布を取り出しながら歩いて行った。僕は少し離れたところで雑誌の立ち読みをする。すぐに加藤が僕の隣に戻ってきた。

「早いな」
「まだ入ってなかった。残高ゼロ円」

 加藤はあからさまに、不機嫌になっていた。

「電話してみたらどうだ?」
「あいつ、私からの電話なんか絶対出ない。この間なんて着信拒否のメッセージ流れたし」

 一人娘からの電話を着信拒否する父親。僕は加藤の父親がいったいどんな男なのか想像すら出来ない。年頃の娘が父親を疎ましく感じるというのはよく聞く話だが、その逆もあるものなのか。

「家帰ってお前の叔母さんから連絡してもらうしかないな」
「うん、そうするよ」
「俺が金出すから、飲み物とアイスでも買って行こう」
「ありがとう。さっきのお昼ご飯と、このお礼はいつか必ずする」