「分かったよ。加藤ではもうしない」精液が乾燥してかぴかぴになった下着を履いたまま、こんなことを言っても我ながら説得力がないと思いつつも、僕はそう言った。
「えっ、何でよ、しろよ」今度は加藤は不満げに声を尖らせて、僕の肩に軽くジャブを数発入れてくる。
「していいのかよ」
「いいよ。その代わり、私もあんたでするから」
「はっ?」

 加藤の不意の発言に、僕はつい足を止めて隣の女子を見た。加藤は右手の人差し指で赤くなった頬をぽりぽりとかきながら、「ていうか、昨日、私もあんたでした。黙っててごめん」

 あんたで、した(・・)って。

 自慰か。

 加藤が僕をネタにして昨日、オナニーをしたってことか?

「別に良いけど……」そう言う以外に、何と言ったら良いのか分からない。でも、僕は心の中でプラスの感情が芽生えているのを感じた。加藤みたいなキレイな子に選ばれてオナニーの対象になったことが、嬉しい。もちろんその何倍も気恥ずかしいが。

「緒方、ご飯早く行こうよ」

 加藤の細い指に、僕の右手の指が絡め取られる感触で僕は我に返った。「ああ」と生返事をしつつ加藤に引っ張られるようにして歩く。昨日、加藤で自慰をした僕の手を、昨日、僕で自慰をした加藤の手がつかんでいる。何だこの状態は。

 間接キスならぬ、間接セックス?

 そう考えただけで、僕の心臓は鼓動が加藤に聞こえるんじゃないかというくらい、速く激しくなっていく。

「ねえ、緒方」加藤が歩きながら振り返る。
「何だよ」
「今度、お互いにしてるとこ見せ合いながらしようよ」
「絶対に嫌だ」
「友達じゃん」
「お前は友達にどこまで要求するんだよ」
「セックスの一歩手前くらい?」

 加藤は平然と言う。僕は彼女に引っ張られつつ、また肺から熱いため息を吐き、「お前の友達の定義、絶対におかしい」
「そっかな。殺す、殺される以外なら割とありだと私は思ってたけど。あ、あそこにファミレスあるね。入る?」

 加藤は右手で僕の指をぎゅっと握りながら、左手で某大手ファミレスのチェーン店を指さした。道路には『本格派タイカレーフェア開催中!』と印刷された黄色ののぼりが立っている。一階が駐車場で、二階が店になっているちょっとお高めの店だ。

「予算的にキツい」
「マジで? カレーセットたった千二百円って書いてあるけど」