私に死ぬと言われた女子達が、いきなり大声を出して泣き始めると、教室の中はちょっとしたパニック状態になった。男子達も女子達も、「東京に帰れ!」「お高くとまってんじゃねーよ!」「謝れよ!」「あんたこそ、死になさいよ!」と怒号が津波になって私に押し寄せてくる。

 ああ、初日からやっちゃった。

 まあ、いいや。

 どうせ、遅かれ早かれ、私は浮くんだから。

「私の席、どこですか」

 教室じゅうに充満する負の雰囲気を、スルーして私は隣に立つ顔色を失った担任に尋ねた。

「いや、加藤、その前にさ」

 担任の表情は形だけでもいいからとりあえず皆に謝ってくれないかと雄弁に物語っていた。

 もちろんしない。

「あの窓際の一番後ろにします」

 私は勝手に空いてる席を見つけると、両手の紙袋を前後に揺らしながら移動する。担任の宮下の舌打ちが聞こえたけど振り返りもしない。横切るたびに子供達に「性格ブス」「ぜってーハブにしてやる」とかの口撃を受けた。けど私はまるで傷つかない。私の心を守る硬い殻はダイヤモンドでできている。何人たりとも擦り傷ひとつ負わせられない。家でも学校でもずっと一人で戦ってきた猛禽類の私に、群れの中で人間関係に気を遣いびくびくと生きてきたあんた達みたいな草食動物が何かできると思っているのか。私は、私に何か言ってくる席に着いた子供達、一人一人の顔をじっと見下ろす。言外に「顔は覚えたから」という意味をこめて。すると、彼らは目を見開き、信じられないモノを見たという表情をして、すぐに顔を逸らした。

 ほら、弱いくせにいきがるから。

 そんな風にして、私が視線で軽い威嚇射撃をしながら歩くと、教室は潮が引いていくように静けさを取り戻す。私が席のそばに着く頃にはもう私の歩く足音しかしない――
 していた。

 私の席の一つ前に座る男子が、机に突っ伏して寝息を立てていた。

 あの喧噪の中でも起きなかったのか。

 神経が太いのか、そもそもないのか。

 私の足はその男子の一歩手前で、自然に止まる。