加藤は早口でそんなことを言うと、僕を抱く両腕に力をますます込めてくる。彼女の身体の柔らかい感触に、僕はさらに混乱する。加藤に抱かれて嬉しいという気持ちと、殻の中に封じ込めた汚らしい本当の自分が顔をのぞかせるのが怖いという気持ちが同時に沸き起こる。でも、彼女を突き放すことなんて、僕にはできるはずもない。僕は身体じゅうに血が駆け巡るのを感じる。はっきりと勃起したのを知る。それは僕に下腹部を押しつける彼女にも、もうバレているだろう。恥ずかしい。加藤杏に、元クラスメイトの女の子に、僕は、今、強く欲情している。

「あ」

 加藤は僕の膨らんだペニスにスラックスの上から触れた。「緒方、緊張しなくていいよ。全部、私がしてあげる」彼女はじっと僕の顔を見つめたまま、ゆっくりとチャックを下ろし始める。このまま流れに身を任せてもいいんだろうか。僕はまだ何も決心できていない。僕は彼女の身体を両手で支えるので精一杯だった。そうしないと倒れてしまう。でも、加藤はさらに僕に体重をかけて、僕を強引に布団に押し倒した。

「今度は私からしてあげる。キスの仕方、教えてあげる」

 彼女はそう言うと、僕のペニスを右手で握ったまま、自分の唇を優しく、僕の頬や首筋に押し当て、ぺろぺろと舌で舐めだした。まるで親猫が子猫の毛繕いをするように、丁寧に僕の身体を、彼女は舐める。くすぐったいような快感が背筋に走る。

「加藤、こういうのって、シャワー浴びてからやるんじゃないのか」
「私、ちゃんとシャワー浴びてからラブホ出たよ。平気」
「そうじゃなくて、僕が汚いよ」
「いい。今の緒方が欲しい。疲れきって、スーツよれよれで、汗くさくて、仕事でぼろぼろになって、一人で泣きそうになってた緒方を、私めちゃめちゃにしたい」

 加藤は僕に覆い被さるようにして、僕の顔をじっと見つめる。彼女の吐息がかかるくらいの至近距離に加藤の顔がある。蛍光灯の光が、彼女を背後から照らしているせいで、彼女の姿は暗い影と重なっていた。でも、大きな瞳だけは力強い光を放っている。僕は右手首とペニスを加藤にぎゅっとつかまれて、身体が小刻みに震えるのを感じた。まるで猛禽類に食われる寸前の小動物のように。快感と、恐怖の入り混じった感情が胸に広がる。そして、心の殻にまたヒビが入る。

「緒方、唇を開いて、キスするよ。深いキス。舌を絡ませて、私を抱きながら」