闇の中で、ガラス製の壁から漏れ出す光が駐車場を照らしている。車は一台もない。ただ輪留めに高校生と思しき少女が一人座り込んでいた。彼女は冬の寒空の下、僕が卒業した高校の制服の上に赤っぽい色のジャージを着て、缶コーヒーをちびちびと飲んでいた。時折吐く白い息が風に流されかき消されていく。彼女はその時声を出していたようだけど、それがため息なのか、独り言なのか、僕には分からない。

 小さな声は遠くには届かないのだ。

 彼女の顔もよく見えなかった。店からの光が逆光になっているせいだ。光は彼女の細い身体の影を、駐車場に描く。その影を横切って僕はコンビニの店内に入った。こんな深夜に一人であの子は何をしているんだろうと頭の片隅で思いはしたけれど、今のご時世、サラリーマンが女子高生に話しかけただけでも事案扱いになりかねない。せいぜい心の中で、変な連中に絡まれる前にさっさと家にお帰り、と見知らぬ後輩に注意するしかない。僕は眠たそうにしている外国人のアルバイト店員が発する機械的な「いらっしゃいませー」という挨拶を聞き流すとカゴを手に、とんかつ弁当と、ペットボトルの烏龍茶を放り込み、最後に雑誌のコーナーに向かった。青年誌の表紙が目に止まる。若くて見栄えの良い女の子達が水着姿を惜しげも無く披露していた。もう十一月の半ばだというのに、ここだけは年中夏だ。男達の性欲を刺激して出版社は本を売る。この表紙の女の子達は、名前も知らない男達の性的な妄想の中で、汚される。犯される。消費される。そんなことはこの子達も承知の上だろう。それでも、彼女達は自身の夢を叶えるため(あるいは欲望を満たすため)に布地の少ないビキニを着て、刺激的なポーズを取って、僕達を誘うのだ。

 どうぞ私で自慰してください、と。

 僕は八種類ある表紙の中で、一番髪の長い女の子が表紙の雑誌を取った。その時、真横から聞き覚えのある声がした。

「あれ、緒方じゃん」

 反射的に、顔を声がした方に向ける。

 さっき駐車場の輪留めに座っていた少女が、両手を赤いジャージのポケットにつっこんだまま立って僕を見上げていた。少女はジャージの下には濃紺のブレザーと白のワイシャツを着ていて、短めのプリーツスカートからは、長くスレンダーな脚が伸びている。やっぱり僕の母校の女子の制服だ。少女がゆっくりと僕に近づいてくる。僕は混乱して何も言えない。