夕食後、籤を引き終えたあたしと杏は部屋に戻る。あたしはすっかり憔悴した演技をしつつ終始黙り込んでいる杏に声をかけた。

「杏、これからどうしよう?」
「まだ分からないけど」

 あたしは杏の返答と態度に軽くショックを受けた。今までの子達とあきらかに反応が違う。そもそも杏は夕食に手をつけていた。それもおかしい。男子ならまだしも女子でここの実態を知ったその日に、食事がノドを通った子など一人もいなかった。だが、杏は半分は食べていた。戻ってくる途中でトイレに寄って吐いてたみたいだけど一度は食べたのだ。この子はやっぱり違う。容姿だけでなく、心も別物だ。

「あたし、乱暴されるの嫌だよ。レイプされるのも絶対嫌」

 杏の心の強さを計ろうと、あたしは敢えて“レイプ”という単語を使った。

「そんなの言わなくても分かってるよ」

 だが、杏は一向に動じた様子はない。

「レイプされるくらいなら、いっそ海に飛び込んで死んだ方がずっとマシ」

 あたしはさらに“レイプ”を連呼する。

「海に飛び込めるなら、この施設から脱走できたってことだから、死ななくてもいいよ。そのまま一番近くの民家に飛び込んで警察を呼んでもらえばいい。あ、三年前、ここの生徒が脱走して島の人と揉めたって、皐言ってたよね」
「う、うん」

 あたしは杏の冷静さに戸惑いつつ、何とか演技を続ける。

「この島の人はそれ以来、私達を、ナミトクの生徒を頭がおかしい人間だと思い込んでる。もしかすると脱走して、この島の人に助けを求めても無駄かもしれない。あたし達の言うことより、ここの職員の言うことをこの島の人は確実に信用する。あたし達がここで虐待されているっていくら話してもまともに取り合ってもらえないかも」

 あたしはさらに今は絶望的状況なんだと、杏に伝えた。

 さあ、杏、どう反応する?

「本土だ」

 ほとんど間を置かずに杏はそう言った。本土に脱走するつもり? ふぅん、まあ無理だと思うけどね。施設の外に出るのも警備員の目をかいくぐらないといけないし、財布も取り上げられてフェリーに乗るお金もないじゃん。そもそもあたしがあなたをずっと見張っているのに。知らぬが仏とはまさにこのことだ。

 ことん。

「え?」「誰?」