あたしが加藤杏とウソで塗り固めた会話をしている内に、フェリー乗り場で、もうすぐ出港するというアナウンスが流れた。　

「あ、そろそろフェリーの時間だよ、行こう」

　あたしはソファーから立ち上がると、自分から率先してフェリーへと乗り込もうとする。でも、加藤の歩みは遅い。鈍い女。イラッとする。でも、ここは我慢だ、顔に出すな。

「私、腕力ないから、先に行っていいよ」と重そうに青色のキャリーバッグを転がしている加藤が言った。
「いいって。どうせ同じ船じゃん。仲良く行こうよ」

　にこにこと笑って、あたしはウインクした。

「このまま逃げようと思ったのに」と加藤は微笑する。

　あたしは「またまた～」と言って加藤のところまで駆け寄り、左腕を取って破顔した。

「逃がさないよーだ♪」

　この言葉だけが、あたしが加藤と交わし会話の中でただひとつ嘘偽りのないモノだった。