お香が燃え尽きるまでの10分ほどが、どれだけ長く感じたか分からない。

これが失敗すればおじさんと碧はバスティーユ牢獄に閉じ込められたままになるかもしれないのだ。

無事に二人が戻ってくることを必死に祈った。

にもかかわらず、どうしてこんなことになるの!?

お香が燃え尽きた頃、部屋に入ったわたしを誰かが待ち伏せていた。ドアの横に潜んでいたのか、突然背後から伸びた腕に羽交い締めにされたのだ。

全く振り払えない強い力で、頭上から降ってくる声は男の声だった。でも何を言っているのか全然聞き取れない。後ろにいる相手の顔は見えないけれど、日本人じゃないことは確かだ。

恐怖に足が震えだす。

今家には誰もいない。叫んでも助けに来てくれる人はいない。

それに何より、春彦おじさんと碧が戻って来なかった。

代わりにやってきた男はわたしを絞めあげながら喚き散らし、しばらくして手を離したかと思えば、わたしの首を片手で掴み壁に押し当てた。

あまりの痛さと苦しさに頭の中がパニックになりそうになる。

わたしの首なんて簡単に折ってしまえるだろうと思えるような、太くて頑丈そうな腕だった。

息もできず、その手を外そうと必死に爪をたてる指先からすぐに力が抜けていった。

気を失う寸前に見えたのはビロードの仮面だった。