わたしたちは辺りをうかがいながら、そっと通路に出た。


「そんで、これって帰る時どうするの」

「お香が燃え尽きたらタイムオーバーよ」

「は? 燃え尽きた瞬間二階の窓の外にいたらどうすんだよ!」

「あ……、それは考えてなかった」

「燃え尽きるまで何分?」

「二十分くらいかな」

「一旦十五分程度でここに戻ろう」

碧の奴、なかなか頼りになるじゃないの。と思ったのも束の間、わたしたちはあっさり衛兵に見つかり脱兎のごとく逃げ出した。

逃げるって言ってもあの部屋に戻る以外ない。

時間さえ稼げれば自分の部屋に戻れることは分かっている。

でも、今回仮面の人から話が聞けなければ残るお香はあと一本。万が一、おじさんがここから帰れなくなっているんだとしたら、助けるチャンスはあと一度しかない。

「仮面の人を見つけたら春彦おじさんかどうか確認する」

「それで?」

「もし本物のおじさんなら連れて帰らなきゃ」

「どうやって」

「こうやって」

わたしは碧の腕を掴んだ。つまり、わたしたちが帰る時におじさんに触れていることで、連れ帰ることができるんじゃないかって思ったんだけど。

「無理な気もするけど、試してみるしかないか」

ベッドの影に隠れたわたしたちは、小さい頃押入れに隠れて遊んだ時みたいに肩を並べていた。わたしは震えていて、碧を驚かせた。

「そんなに怖がるくらいならお香なんか捨てればよかったのに」

「そうじゃなくて」

このおかしな場所に来たことが怖いんじゃない。

「……おじさん、無事だよね」

テロに巻き込まれたっていう以外、何の情報もない。生きているかどうかを確認することさえできない。

「夏に送ってくれたお香がおじさんがフランスに行ったタイミングで届いたことも、テレビでバスティーユ牢獄を見たことも、もしかしたら偶然じゃないのかも」

碧は笑わなかった。馬鹿げた考えだって、非科学的だってわたしの言葉を否定しなかった。

「姉ちゃん、春彦おじさんのこと」