「何が見える? お姉ちゃんの部屋? それとも」

「これってまさか、マジでバスティーユ牢獄……」

驚きに目を見開いた碧の顔を見上げてわたしは嬉しくなった。

「ほらね。言ったとおりでしょ」

背だけはおじさんに似て高いんだから。

「いや、まさか、そんなことありえない。絶対にありえない!……とも言いきれない」

頭を抱える碧は放っておいておじさんの、もとい仮面の人を探す。

部屋の中には誰もいないようだ。どこかに出かけているんだろうか。

「仮にさ、お香のせいで二人で同じ幻覚を見てるなんてこと、あると思う?」

「集団幻覚って言ってユングもそれについては研究してたらしいけど、今この状況が集団幻覚かって言われたら俺自信ない。こんなリアルな幻覚あってたまるかよ」

「じゃあさ、春彦おじさんがテロに巻き込まれてここに連れてこられたって可能性は?」

「バスティーユ牢獄に? 今は取り壊されていてもう存在してないよ」

「わたしたち、あのテレビ番組のせいでここがバスティーユ牢獄って思ってしまってるんじゃない? 本当は映画のセットみたいな、よく似た偽物なのかも」

「誰が何のためにそんな手のこんだことするんだよ」

「それは分からないけど」

「まぁでも、そっちの方が現実的ではある、かも」

「とにかく、仮面の人を探して話を聞かなきゃ」

部屋の扉は閉めてこなかった。おかげでこちらの鉄格子も開いている。